研究課題/領域番号 |
20K15759
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
植野 嘉文 神戸大学, 理学研究科, 学術研究員 (70847805)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 光合成 / 非光化学消光 / エネルギー移動 / 時間分解蛍光 / 緑色微細藻 |
研究実績の概要 |
本研究では、光エネルギーを光合成に利用せず熱として散逸する制御機構(非光化学消光)による両光化学系における光エネルギー利用方法を蛍光分光法により明らかにすることを目的としている。令和2年度には、光化学系IIに選択的に作用する強度が一定の光(定常光)で培養されたクロレラ細胞における非光化学消光誘導時の両光化学系におけるエネルギー移動過程およびその寄与の継時変化を絶対蛍光強度測定と時間分解蛍光測定の組み合わせにより検証した。 絶対蛍光強度スペクトルの結果から、強光・標準光・弱光に対応する光強度の定常光下で培養された細胞全てにおいて、光照射後30秒以内に非光化学消光が最大になることが明らかになった。また、非光化学消光誘導前の暗順応細胞と比較すると、非光化学消光誘導により、蛍光量子収率が~25-35%減少し、その中で、光化学系II蛍光領域の強度が~40-45%、光化学系I蛍光領域の強度が~20-30%減少することが明らかになった。時間分解蛍光スペクトルの解析結果から、非光化学消光誘導により、時定数~50 psで起こる光捕集アンテナから光化学系IIへの速いエネルギー移動が抑制され、光化学系II蛍光領域において時定数~150 ps以内で蛍光消光が起こることが明らかになった。また、時定数~150 ps以内で起こる蛍光消光により、光化学系II内の長波長成分へのエネルギー移動が抑制されると共に、時定数~150 ps以上で起こる光化学系Iへの遅いエネルギー移動も抑制されることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、一定強度(強光、標準光、弱光)で培養されたクロレラ細胞に関して、絶対蛍光強度測定と時間分解蛍光測定、および得られたデータの解析を行い、得られた結果から、両光化学系における非光化学消光の誘導速度とその寄与、および光捕集アンテナから光化学系へのエネルギー移動過程の変化、が明らかになった。また、次年度に行う変動光実験の培養条件を決定した。
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今後の研究の推進方策 |
各サンプルの時間分解蛍光スペクトルを共通の時定数を持つ指数関数の和でグローバル解析した際に非光化学消光誘導前後で時定数が大きく変化する成分が存在したが、時定数の変化が当該成分の寄与(amplitude)に影響を与える可能性がある。そこで、amplitudeの変化を精査するために非光化学消光誘導前後の全サンプルを同時にグローバル解析することを試みる。 緑色微細藻のモデル生物であるクラミドモナスにおいて、キサントフィルサイクルが非光化学消光にほとんど寄与しないことが報告されていた。しかし、令和2年度、本研究で使用したクロレラの近縁種において、キサントフィルサイクルが非光化学消光に寄与することが報告された。そこで、阻害剤を使用してクロレラにおけるキサントフィルサイクルの寄与を精査する。 当初の研究計画通り、光化学系Iに選択的に作用する強度が周期的に変化する光(変動光)で培養されたクロレラ細胞に関して、絶対蛍光強度測定と時間分解蛍光測定を行い、非光化学消光誘導時の両光化学系におけるエネルギー移動過程およびその寄与の継時変化を明らかにする。得られた結果の組み合わせから、両光化学系で誘導される非光化学消光による光エネルギー制御機構を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、参加予定の国内外の学会が延期またはオンライン開催となった。また、培養に使用する消耗品の一部の供給時期が未定となり、年度内に購入できなかった。これらにより、次年度使用額が生じた。この次年度使用額について、当初予定していた消耗品に加え、研究遂行に必要な備品の購入に充てる予定である。
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