研究課題
非生理的環境下に取り出したミオシン1分子の動きをサルコメア1節の動きにスケールアップして議論をすることは、標識付与の影響やサルコメア内の生理的な影響を無視するのみならず、アクチンやミオシンの構造的配列による挙動特性を考慮しないという難点がある。そこで本研究では、直接計測の難しいサルコメア内のミオシン状態を、生理的環境下のまま計測するために、ラマン分光法を用いた新たな計測方法の確立を目指す。具体的には、生きたサルコメア内のミオシンを、直接ラマン分光計測すると同時にサルコメア長の動きも測定することで、生理的条件下でのミオシン状態を推定する。本年はまず、代表者が発見した、温めた心筋細胞内のサルコメアが収縮と弛緩を繰り返す熱筋節振動(HSOs; Hyperthermal Sarcomeric Oscillations)状態になる現象に関して、心臓から分離して培養した心筋細胞では、通常の心臓の心拍数(5-7 Hz)と異なる低周波数(1.4 Hz)で細胞内カルシウム濃度が変化しているにも関わらず、熱筋節振動の周波数は、心拍数と同じ周波数であること、熱筋節振動の振動波形はカルシウム濃度変化と共に振幅や波形を大きく変えるにも関わらず、周波数は一定に保たれることを発見した。申請者はこの性質を収縮リズム恒常性(CRH; Contraction Rhythm Homeostasis)と命名した。そして、サルコメア内の個々のミオシンの確率的な化学力学反応を考慮した数理モデルでこの現象を再現することに成功した。周波数の一定性により、積算によるラマン分光信号の増強が可能で、ミオシン動態の数理モデル予想も添えた計測系の確立に成功した。また、40~80MPaの静水圧を加えた状態で光学顕微鏡を用いて観察を行う高圧力顕微鏡法を利用し、均一に作用する静水圧を利用したユニークな筋原線維の構造制御方法を開発した。
2: おおむね順調に進展している
計画通り研究を遂行し、また、筋節内ミオシン動態を推定するために重要な現象の発見(熱筋節振動の収縮リズム恒常性)とその数理モデル予想を得ることに成功した。さらに、静水圧を利用した、筋原線維の構造を定量的に変化させるユニークな手法の開発にも成功した。
引き続き研究計画通り研究を推進する。そして、研究成果の論文・学会発表を継続する。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 3件) 備考 (5件) 産業財産権 (1件) (うち外国 1件)
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