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2020 年度 実施状況報告書

電子線を利用したタンパク質の分子内電荷の決定

研究課題

研究課題/領域番号 20K15764
研究機関国立研究開発法人理化学研究所

研究代表者

高場 圭章  国立研究開発法人理化学研究所, 放射光科学研究センター, 特別研究員 (80865460)

研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2022-03-31
キーワードクライオ電子顕微鏡 / 結晶電子回折 / タンパク質構造解析 / 電荷解析
研究実績の概要

分子内部での電荷は分子物性を特徴づける重要な構造パラメータであり, 特にタンパク質においてはその機能に密接に関係する. 本研究ではクライオ電子顕微鏡を使用した電子回折構造解析を実施し, タンパク質分子中での電荷分布を実験的に決定する手法を開発する. 本研究の遂行には, 電荷決定に求められる測定データ条件の見積もり, 電子回折測定実験およびその効率化のためのシステム構築, 条件を満たす回折データを与える試料の調製および選定, 収集したデータに基づくタンパク質電荷分布モデルの構築 が必要となる.
令和2年度においては, 予備的な測定データに基づくシミュレーションによって, 電荷の精密決定のための条件割り出しを行った. また, 回折実験とデータ処理の効率化を目的とし, これらの半自動化を目的に開発された装置制御・処理システム[1]の運用を試験した. 計画時点のターゲット分子では電荷決定のための測定データ条件を満たせないことも考えられる. そのため, 計画時点での標準ターゲット分子である緑色蛍光タンパク質(GFP)の結晶試料を調製し回折に供するとともに, より高い座標精度が期待できるビタミンB12を始めとした低分子化合物についても電子回折測定および解析を実施した. その結果, 特にビタミンB12に関しては分解能1.0 Aを超える回折データセットを収集した. また, 結晶試料を電子回折に特化した形状に整形するために, 低分子化合物を用いて走査型電子顕微鏡/収束イオンビーム装置による微細加工の予備実験を行った. これら得られた成果の一部を国内学会において報告した.
[1] Takaba, K., Maki-Yonekura, S., Yonekura, K. J. Struct. Biol. 2020.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

予備データに基づくシミュレーションにより, 電荷の精密決定には高い原子座標精度との両立が不可欠であることを確認した. この結果, 既知条件で得られるGFP結晶を用いた電子回折では座標精度確保が困難であると判断した. そのためタンパク質ではないが生体で機能を持つ中低分子化合物で高い回折分解能を示す試料を探索した. このうちビタミンB12では1.0 A以上の分解能を示す回折像が収集され, 得られたクーロンポテンシャルマップに基づき分子中心のコバルト原子が確かに正電荷を示すことを明らかにした. GFPについてはより電子回折に適した結晶試料を得るべく, 新たな結晶化条件探索を開始した. また, これらの測定及びデータ処理を経て, 開発された半自動処理システムが適切に運用可能であることを確認した. 同じく低分子化合物について走査型電子顕微鏡/収束イオンビーム装置での試料加工を実施し, 加工によって薄層化した領域は電子線の透過能が向上することを確認した. しかし加工領域は剛性も低下するためクライオ電子顕微鏡へ移し替える際に破壊されやすく, タンパク質への適用のためには条件の最適化が必要である. これとは別に, もともと電子回折に適した形状特性を持つタンパク質結晶の探索を行い, 候補となる分子を見出した. これら複数試料の回折実験を行った上で, ターゲット結晶の配向特性がデータの質に特に重要であることが判明した. そのため配向性を実験的に制御する方法の開発にも取り組んでいる.
令和2年度の目的は課題達成のための条件の洗い出しおよび試料の評価と探索であり, 多面的な手法展開によってこれらは目標通り達成できたと考えている. 令和3年度においてはこれらを統合し, 研究目標である電荷解析へ持ち込む.

今後の研究の推進方策

電子回折の強度は試料の電荷分布に強く応答し, また, 応答特性には周波数依存性がある. この関係を利用して実験データを解釈することで, ターゲット分子内の各原子の電荷値, すなわちビタミンB12であればコバルトの正電荷の価数決定が可能となる. 令和3年度においては座標精度の高い回折データの得られたビタミンB12について, その電荷分布決定に取り組む. その上で, 探索中であるGFPの新規結晶, もしくは加工結晶, あるいは別の候補タンパク分子について電子回折実験を行い, 収集したそれぞれのデータ精度の範囲内で, 電荷解析を実施する. 具体的には, これらは既存の解析ソフトウェアでは対応が難しいため, 独自にプログラム開発を行う. また, 本研究での電荷解析戦略がタンパク質以外の生体分子に適用可能かどうかは, さらなる応用や汎用化の展開のために重要である. そのため引き続き候補分子を探索し, その電子回折特性を解析する.
決定される電荷分布に基づいて, 分子機能の再解釈を行う. これには既存研究との比較が不可欠である. 本研究で電子回折によって見いだされる電荷分布が, 他手法, すなわちX線回折や計算化学的手法から導出されてきたものと同等であるか否かが重要な点となる. そのために, 他手法で得られた電荷解析結果と可能な限り定量的に比較可能な検証様式の確立を目指す. これらは結果および手法の両方で論文化するが, タンパク質ターゲットで十分な精度が得られない場合にはビタミンB12を始めとする生体分子での成果を報告する.

次年度使用額が生じた理由

令和2年度は消耗品, 出張旅費の他, データのまとめおよび学会発表に使用するためのノートPC, およびGFPの蛍光観察のための蛍光イメージャーの購入を予定していた. しかしながら, 物流の停滞を考慮し先行して電子回折実験を行った結果, GFPでの電荷解析が想定以上に困難である可能性が示唆された. そのため蛍光イメージャーの購入は再検討とし, 当該分を令和3年度予算に繰り越した.
本課題遂行のためにはターゲット選定が重要, 有用であることがわかったので, 令和3年度は引き続き候補分子の探索を行う. これらは基本的に市販試薬として購入できるものか, 他の研究者から提供を受けられるものを対象とする. 令和3年度予算はこれら解析候補試薬および提供サンプルの維持管理のための試薬購入に使用する. また特にビタミンB12など酸化還元反応性を持つものは嫌気環境の構築が必要となり, そのための実験器具を購入する. 収集される回折イメージデータおよび解析データが膨大になりつつあるため, その維持管理のためのストレージもしくはファイルサーバーを購入する. この他論文発表のための英文校正費用および投稿料, 学会発表のための出張旅費は当初の予定通り使用するが, 国外出張が困難な状況が続く場合にはその分を消耗品費として使用する.

  • 研究成果

    (3件)

すべて 2020

すべて 学会発表 (3件)

  • [学会発表] クライオ電子顕微鏡による中低分子の微小結晶構造解析2020

    • 著者名/発表者名
      高場 圭章・眞木(米倉) さおり・米倉 功治
    • 学会等名
      2020 年度構造活性相関シンポジウム
  • [学会発表] クライオ電子顕微鏡を利用した3 次元微結晶構造解析2020

    • 著者名/発表者名
      高場 圭章・眞木(米倉) さおり・米倉 功治
    • 学会等名
      2020 年度日本結晶学会年会
  • [学会発表] High-resolution Structure Determination of Biomolecular Microcrystals by Cryo-Electron Diffraction2020

    • 著者名/発表者名
      Kiyofumi Takaba, Saori Maki-Yonekura, Koji Yonekura
    • 学会等名
      2020 年度日本生物物理学会年会

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公開日: 2021-12-27  

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