研究課題/領域番号 |
20K15768
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
坂田 豊典 東京大学, 定量生命科学研究所, 特任助教 (40795530)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | コヒーシン / コヒーシンローダー / 染色体高次構造 / HiChIP / エンハンサー |
研究実績の概要 |
コヒーシンローダー複合体のサブユニット、NIPBLは遺伝子の転写制御などの染色体機能に寄与しており、その変異はCornelia de Lange Syndrome(CdLS)という発生疾患の原因となる。NIPBL変異によって、SE(super-enhancer)近傍で遺伝子発現が低下することから、SEを介した転写制御とローダーとの関わりが示唆されているが、その詳細は不明である。 そこで、SEによる遺伝子発現制御の詳細を調べるため、ヒト培養細胞HCT116において、エンハンサーマーカーH3K27acとコヒーシンサブユニット、RAD21のHiChIPを行い、クロマチンループ構造の解析を試みた。HiChIPの実験条件を検討したところ、PCRバイアスリードペアの割合を抑制し、より多くのユニークリードペアを得られた。今後はこれらの因子が介在するクロマチン相互作用をそれぞれ詳細に解析していく。また、NIPBLやRAD21、転写共役因子MED1及びBRD4等を欠損させた細胞でもHiChIP解析を行い、通常時とループ構造を比較することで、ループ構造への影響を解析していく。 また、NIPBLのより詳細な機能解析のため、N末端側の相互作用ドメインやC末端側のintrinsically disordered region (IDR)を含む種々のNIPBL断片を培養細胞で発現させる実験系の構築に取り組んだ。現在、NIPBL全長と3種のNIPBL断片の発現が確認できており、これらのNIPBL断片を一過的に発現させた状態で、AIDデグロン系を用いて内在性のNIPBLを欠損させる。さらに、これらの細胞を使い、H3K27acのHiChIPやRNAポリメラーゼII等のChIP-seq解析を行うことで、NIPBLの転写制御における詳細な役割を今後明らかにしていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コヒーシンローダー複合体のサブユニット、NIPBLは遺伝子の転写制御などの染色体機能に寄与しており、その変異はCdLSという発生疾患の原因となる。NIPBL変異によって、SE近傍で遺伝子発現が低下することから、SEを介した転写制御とローダーとの関わりが示唆されているが、その詳細は不明である。そこで、SEによる遺伝子発現制御の詳細を調べるため、ヒト培養細胞HCT116において、エンハンサーマーカーH3K27acとコヒーシンサブユニット、RAD21のHiChIPを行い、クロマチンループ構造の解析を試みた。これまでに既にHiChIP法を確立していたが、一方で、得られたデータは解析に使用不可能なPCRバイアスリードペアの割合が約66%を占めており、実験の効率化が必要であった。そこで、今回はシークエンシングDNAライブラリ調製を効率化してPCRバイアスを抑制するために、タグメンテーション法の導入を試みた。その結果、H3K27acとRAD21のどちらのHiChIPサンプルについてもPCRバイアスリードペアを1%程度に抑制し、約99%のユニークリードペアを得られたことで、ほぼ全てのリードペアを後の解析に用いることが可能となった。今後は今回得られたサンプルをさらにシークエンスして、シークエンスデプスを十分に確保した上で、これらの因子が介在するクロマチン相互作用をそれぞれ詳細に解析していく。また、NIPBLのより詳細な機能解析のため、N末端側の相互作用ドメインやC末端側のIDRを含む種々のNIPBL断片をヒト培養細胞で発現させる実験系の構築に取り組んだ。現在、NIPBL全長と3種のNIPBL断片の発現が確認できており、これらの発現下で内在性のNIPBLを欠損させ、転写制御等への影響を解析していく。
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今後の研究の推進方策 |
今後は以下の点について明らかにしていく。 1) SEによる遺伝子発現制御の詳細と、それに対するNIPBLの影響を調べるため、ヒト培養細胞HCT116において、エンハンサーマーカーH3K27acのHiChIPを行い、クロマチンループ構造を解析する。得られた結果から、SEにおけるループ構造を解析することで、どのSEがどの遺伝子と実際に相互作用して制御しているのかを同定する。次に、NIPBLを欠損させた細胞でもHiChIP解析を行い、通常時とループ構造を比較することで、NIPBLのSEにおけるループ構造への影響を解析する。また、同様の解析をRAD21、転写共役因子MED1及びBRD4等を欠損させた細胞においても行う。 2) HCT116細胞のSE領域における転写因子の結合モチーフ解析を行い、主要な転写因子を探索する。次に、得られた候補転写因子をRNAiによってノックダウンし、SEへのローダーなどのクロマチン結合、SEと遺伝子とのクロマチンループ及び遺伝子の転写量等について解析を行う。さらに、候補因子自身についてもChIP-seq解析を行う。これらの結果と上述のHiChIP等のデータ、既存のChIP-seq及びRNA-seqのデータを合わせて、各遺伝子の発現、ローダーとSEの構成因子の結合及び、ループ構造との関連を統合的に解析する。 3) NIPBLのより詳細な機能解析のため、種々のNIPBL断片の発現下で内在性のNIPBLを欠損させ、転写制御等への影響を解析していく。具体的には、NIPBL断片を一過的に発現させた状態で、AIDデグロン系を用いて内在性のNIPBLを欠損させる。これらの細胞を使い、H3K27acのHiChIPやRNAポリメラーゼII等のChIP-seq解析を行うことで、NIPBLの転写制御における詳細な役割を明らかにしていく。
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