コヒーシンローダー複合体のサブユニット、NIPBLは遺伝子の転写制御などの染色体機能に寄与しており、その変異はCornelia de Lange Syndrome(CdLS)という発生疾患の原因となる。NIPBL変異によって、SE(super-enhancer)近傍で遺伝子発現が低下することから、SEを介した転写制御とコヒーシン及びローダーとの関わりが示唆されているが、その詳細は不明である。 高次構造解析にはこれまでにHi-C法やHiChIP法がよく用いられていたが、最近では新たな手法としてMicro-C法が開発されており、より高い解像度で高次構造データが得られることが報告されている。そこで、健常者及びCdLS患者由来の線維芽細胞においてMicro-C解析を行なった。まずSEとプロモーターのループについて解析を行ったところ、CdLSでの発現上昇遺伝子ではループが形成されている割合が少ない一方で、発現減少遺伝子ではより多くのループが形成されていることが明らかとなった。さらにCdLSでは、発現減少遺伝子ではSEとプロモーターのコンタクトが減弱している一方で、発現上昇遺伝子では変化がないか、むしろ強まっていそうだということがわかった。これまでの結果と合わせて考えると、通常の細胞ではコヒーシンローダーによって、SEにBRD4とコヒーシンがリクルートされ、他のメディエーター複合体等の転写共役因子と共にエンハンサーを活性化しつつ、遺伝子のプロモーターとループ構造を形成していると考えられる。一方で、CdLSにおいてはコヒーシンローダーが減少することで、SEにおいてBRD4の局在も減少してエンハンサー活性が低下し、かつコヒーシンの結合が減少してプロモーターとのコンタクトが減弱すると予想される。その結果として、最終的に近傍遺伝子の発現が低下してしまうのではないかと考えられる。
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