研究課題/領域番号 |
20K15777
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
弘澤 萌 京都大学, iPS細胞研究所, 特定研究員 (10849566)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | CRISPR-Cas / Anti-CRISPR protein |
研究実績の概要 |
本研究では、抗CRISPRタンパク質(Acr)を Casタンパク質に対するリクルーターとして再構築し、新規ゲノム編集のツールとすることを目指している。当該年度は、概念実証としてAcrに任意のタンパク質を融合させCasタンパク質にリクルートできるのかを検証した。 当初の予定は、「1. AcrllC1とNmeCas9のセットで概念実証を行う。2. AcrllA4の変異体(SpCas9のDNA切断能を阻害するが、DNA結合は阻害しない)を作製する。」であった。しかしながら、SpCas9のDNA結合を阻害しないがDNA切断を阻害するAcr(AcrllA5)が論文で報告されたのでこちらを用いることとした。 まず、AcrllA5がSpCas9の機能を阻害できるのかどうかをEGFP遺伝子のノックアウトを指標に検証し確認した。 次に、AcrllA5に転写活性化因子であるVPRを融合させることでレポーター遺伝子(ここではhmAG1)の発現を制御できるかどうかを検証した。AcrllA5にVPRを融合させたもの(AcrllA5-VPR)と融合させていないもの(AcrllA5)をそれぞれSpCas9、レポーター遺伝子を標的としたガイド鎖、レポーター遺伝子のセットと同時に細胞に導入したところ、AcrllA5-VPRを導入した時のみhmAG1の発現が確認された。これは、AcrllA5に任意のタンパク質を融合させることでSpCas9に任意のタンパク質をリクルートできる可能性を示唆している。 以上より、Acrを再構築することでAcr自身を新規ゲノム編集ツールとして活用できる可能性が明らかとなった。ゲノム編集ツールの拡張は本分野の発展において重要であり本成果もその一役を担うと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Acrに任意のタンパク質を融合させCasタンパク質にリクルートできるのかを検証した。本研究においては、AcrとしてAcrllA5を、Casタンパク質としてSpCas9を選定した。これは、SpCas9が現在広く使用されている事とAcrllA5が当該研究において理想的な性質(SpCas9のDNA結合を阻害しないで、DNA切断能を阻害する)であったからである。そこで、AcrllA5に転写活性化因子であるVPRを融合させたコンストラクトを複数作製した。その結果、レポーター遺伝子の発現を制御(遺伝子活性化)することが可能なコンストラクトを作製することに成功した。しかし、その活性化のレベルは期待していたほど高くなかったのでこれの改善が必要と考えている。また、遺伝子の活性化のみではなく、遺伝子の発現抑制などができないかを検討している。 当初の予定とは異なるが、AcrllA5にVPRを融合させSpCas9にリクルートできることが示せた(当該研究のコンセプトを示すことができた)ことより、現在までの進捗状況としては「おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
AcrllA5にVPRを融合させることで遺伝子活性化が可能となったがその活性化レベルは期待していたもの程高くなかった。そこで、AcrllA5に核移行シグナルの付加などをして改善できないか検討する。また、遺伝子の活性化のみならず遺伝子の抑制化もできないか検討する。具体的にはKRABなどをAcrllA5に融合させることで、レポーター遺伝子の発現が抑制できないかを検証する。また、遺伝子抑制化を評価する実験系も同時に構築する。 可能であれば当初予定していた、AcrllC1とNmeCas9のセットでの概念実証を行う。具体的には、AcrllA5の時と同様にAcrllC1にVPRを融合させ、標的遺伝子の活性化を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本来であれば、学会発表等で使用する予定であった。しかしながら、新型コロナウイルスのため学会が中止となったため当該助成金が生じた。 使用計画としては、助成金を物品費とその他に大きく割り振る事を考えている。旅費については、昨今の状況を顧みるに学会等はオンライン開催になる可能性が高いのでその比率を低くする。
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