研究課題/領域番号 |
20K15781
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研究機関 | 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(新分野創成センター、アストロバイオロジーセンター、生命創成探究 |
研究代表者 |
田中 冴 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(新分野創成センター、アストロバイオロジーセンター、生命創成探究, 生命創成探究センター, 特任助教 (60770336)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 乾燥耐性 / クマムシ |
研究実績の概要 |
生命に水は不可欠である。その一方で、ほぼ完全に脱水した状態で生命を維持できる生物種が存在する。この能力は乾燥耐性とよばれ、生体保存のよい手本であり、現在主流の凍結保存に取って代わる可能性が期待されている。しかしながら、ヒトなどの非耐性種における再構成は、いまだに部分的にしか成功していない。そこで、本研究では、これまで試みられてきた再構成系と実際の乾燥耐性生物の細胞内変化の過程がどのように違うのかを、分光学的な手法により検証することを主な目的とする。まずは、実際の乾燥耐性生物において細胞内の観察または遺伝子編集(ノックダウン/ノックアウト系)をおこなう目的で、乾燥耐性動物クマムシにおける顕微注入技術の確立をおこなった。緑色蛍光タンパク質(GFP)やクマムシタグ配列の導入などを試みることで、遺伝子編集に必須のタンパク質を導入することに世界で初めて成功した。また、これまで再構成系に用いられていた遺伝子産物について分光学的な性状解析をおこなうことで、配列から予想されていたらせん構造を形成することや、液-液相分離様のドロップレット構造をとることが明らかになってきた。今後は、乾燥耐性動物クマムシ個体における遺伝子編集を実行するとともに、クマムシ個体内部の観察方法の確立をおこなうことで、「乾燥耐性において細胞内でどのような現象が起きているのか」を調べていく。さらに、酵母やヒト培養細胞などの再構成系においても細胞内にどのような変化が生じているのかを調べることで、不完全な乾燥耐性との違いを捉えることが次年度の目標である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
COVID-19感染防止対策の影響もあり、研究計画の順序や方法などを変更したが、おおむね順調に進んでいる。当初の予定では、近赤外・赤外分光などをメインに使用する計画であったが、測定のために所属施設外への移動が必要であったために、今年度は施設内の蛍光顕微鏡や円二色性分散計などを用いて研究を実施した。1) 実際の乾燥耐性生物において細胞内の観察または遺伝子編集(ノックダウン/ノックアウト系)をおこなう目的で、乾燥耐性動物クマムシにおける顕微注入技術(マイクロインジェクション)の確立をおこなった。他の生物種で報告されている分子生物学的な手法をいくつか試みることで、緑色蛍光タンパク質(GFP)やクマムシ特有のタグ配列の導入などによって、遺伝子編集に必須のタンパク質をクマムシ内に導入およびその観察に世界で初めて成功した。2) これまで非耐性種内における乾燥耐性の再構成系に用いられていたクマムシ固有の遺伝子産物について分光学的な性状解析をおこなうことで、そのアミノ酸配列から予想されていたらせん構造を擬似乾燥時に形成することや、液-液相分離様のドロップレット構造をとることが明らかになってきた。単純系のin vitroと複雑系のin vivoでの比較をおこなうことにより、乾燥耐性に関わると考えられてきたタンパク質の性状が少しずつ明らかになり、また、乾燥耐性において細胞内で起こる現象を捉えるための技術基盤が確立されてきた。
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今後の研究の推進方策 |
乾燥耐性動物クマムシにおける細胞内の変化を捉える目的で、クマムシ個体内へのタンパク質の導入や観察をおこなう。また、非耐性種内における乾燥耐性の再構成において細胞内で何か起こっているのかを明らかにするため、非耐性種のクマムシやヒト培養細胞、耐性を弱化させた酵母などを使用し、脱水の過程での細胞内変化を観察する。さらに、それらのタンパク質の変化や性質がin vitro環境でも見られるのか、またはどのような環境要因がトリガーになっているのかを明らかにしていく。具体的には以下の3つをおこなっていく。 1.クマムシ細胞内に導入した蛍光タンパク質などが乾眠の過程でどのように変化するかを、二光子顕微鏡などを用いて観察する。また、クマムシの乾燥耐性関連タンパク質についても、細胞内局在などを含め観察をおこなう。クマムシ個体の観察が困難な場合には、クマムシからの細胞の取り出しまたは初代培養系も試みる。 2.非耐性種または弱い耐性しか持たない種をもちいて、クマムシ由来の乾燥耐性関連タンパク質や一般的なタンパク質が脱水中にどのような挙動を示し、それが1)で観察した耐性クマムシ内における挙動とどのように異なるのかを比較する。 3.クマムシ固有のタンパク質について、塩濃度の上昇や水分量の減少がどのような挙動を誘起するかを、蛍光顕微鏡や赤外分光器などを用いて観察する。また、その挙動が細胞内で起こる現象と類似であるか、また必要なコンポーネントは何かなどを明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19感染防止対策の影響により、研究計画の順序や方法などを変更した。当初の予定では、近赤外・赤外分光などをメインに使用する計画であったが、測定のために所属施設外への移動が必要であったために、今年度は施設内の蛍光顕微鏡や円二色性分散計などを用いて研究を実施した。共同研究先への移動が必要な、赤外などの分光測定をおこなうための予算を今年度分に移行することにした。COVID-19感染防止対策により、今年度も移動が困難な場合は、県内で使用可能な機器を探して測定をおこなう予定である。
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