研究課題/領域番号 |
20K15785
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
谷村 信行 京都大学, 医学研究科, 助教 (00844557)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 細胞競合 / 細胞老化 / 上皮細胞 |
研究実績の概要 |
これまでの研究から、がん原性の変異上皮細胞が、周囲の正常上皮細胞によって細胞競合と呼ばれる現象を介して上皮細胞層から排除されることが示されてきた。一方、ストレスに曝されることにより機能が低下した細胞が上皮組織から排除されるかについては未解明の点が多い。そこで、本研究では、細胞老化を起こすことにより機能の低下した細胞が、細胞競合によって上皮細胞層から排除されるか、さらに、老化細胞の排除に関わる分子機構の解明、排除を促進する新規薬剤の開発を目的としている。これまで、細胞周期を停止させることによって細胞老化を誘導するp21を過剰発現するイヌ腎尿細管上皮由来のMDCK細胞株を作製し、p21過剰発現による老化細胞が周囲の正常上皮細胞によって排除されることを示している。 2021年度中に得られた研究成果は以下の通りである。正常上皮細胞層からの老化細胞の排除を抑制する薬剤として、PI3K経路の阻害剤であるLY294002及びグリコシル化阻害剤tunicamycinを同定した。また、正常上皮細胞層からの老化細胞の排除を促進する薬剤を探索するためのスクリーニング系を構築し、京都大学大学院医学研究科医学研究支援センタードラッグディスカバリーセンターが保有する機能既知化合物ライブラリーを用いたスクリーニングを行った。1次スクリーニングの結果から、正常上皮細胞層からの老化細胞の排除を促進する候補薬剤を挙げることができている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、1) 老化細胞が細胞競合によって上皮細胞層から排除されるかの検証、2) 正常上皮細胞が老化細胞を排除するための分子メカニズムの探索、3) 老化細胞の排除を促進する薬剤の探索、の3点である。1) については、昨年度までの研究により、p21を過剰発現するイヌ腎尿細管上皮由来のMDCK細胞株を作製し、p21過剰発現による老化細胞が周囲の正常MDCK細胞によって排除されることを示している。2) については、正常上皮細胞による老化細胞の排除を抑制する薬剤を同定した。その結果、PI3K経路及びタンパク質のグリコシル化が老化細胞の排除を正に制御する可能性が示唆された。3) については、正常上皮細胞による老化細胞の排除を促進する薬剤を探索するための1次スクリーニングを実施し、候補薬剤を絞り込むことができた。 以上のことから、研究はおおむね計画通りに進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
まずは、別の数種類の薬剤を試すことにより、PI3K経路及びタンパク質のグリコシル化が老化細胞の排除に関与するかを詳細に検証する。これによって老化細胞の排除に関わる因子を絞り込むことができるため、それらのノックダウンまたはノックアウトを行い、実際に老化細胞の排除の制御に関与するかを検証する。また、正常上皮細胞による老化細胞の排除を促進する薬剤を探索するための1次スクリーニングによって得られた候補薬剤から、2次スクリーニングによりさらに候補を絞り込む。得られた薬剤の至適濃度を検討し、薬剤の組み合わせによって単剤よりも効果が増強されるかについても検証する。このようにして、老化細胞を排除することにより組織の恒常性の維持を促進し、臓器の正常な機能を保持するための治療方法の開発に繋がる研究を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の見込みより消耗品などの使用量を抑えることができ、さらにコロナウイルス問題による出張機会の減少により、その分の経費が次年度使用額として生じた。次年度は薬剤スクリーニングを継続し、また、研究成果発表のために学会に参加する予定であり、それらの費用として使用する計画を立てている。
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