これまでの研究から、がん原性の変異上皮細胞が、周囲の正常上皮細胞によって細胞競合と呼ばれる現象を介して上皮細胞層から排除されることが示されてきた。一方、ストレスに曝されることにより機能が低下した細胞が上皮組織から排除されるかについては未解明の点が多い。そこで、本研究では、細胞老化を起こすことにより機能の低下した細胞が、細胞競合によって上皮細胞層から排除されるか、さらに、老化細胞の排除に関わる分子機構の解明、排除を促進する新規薬剤の開発を目的としている。 まず、細胞周期を停止させることによって細胞老化を誘導するp21を過剰発現するイヌ腎尿細管上皮由来のMDCK細胞株を作製し、p21過剰発現による老化細胞が周囲の正常上皮細胞によって排除されることを示した。次に、正常上皮細胞層からのp21過剰発現細胞の排除を促進する薬剤を探索するためのスクリーニング系を構築し、京都大学大学院医学研究科医学研究支援センタードラッグディスカバリーセンターが保有する機能既知化合物ライブラリーを用いたスクリーニングを行った。2022年度の研究により、正常上皮細胞層からの老化細胞の排除を促進する候補薬剤を絞り込むことができ、現在それらの薬剤の標的因子の機能について解析中である。さらに、p21過剰発現細胞では活性酸素種 (ROS) の産生量が増加し、p21過剰発現細胞と正常上皮細胞を共培養することにより、p21過剰発現細胞でのROS量が減少することを示した。また、抗酸化物質であるtroloxを処理することにより、p21過剰発現細胞の排除効率が減少したことから、老化細胞で上昇するROS量が老化細胞を排除する現象に関与することが示唆された。以上の結果から、老化細胞がその周囲の正常上皮細胞により細胞競合を介して排除される可能性が示され、排除に関わる分子機構についての知見を得ることができた。
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