研究実績の概要 |
本研究は,ミトコンドリア外膜に存在するAAA-ATPase Msp1を介した誤配送タンパク質の配送やり直し(校正)の分子基盤を解明することを目的とした.本年度はミトコンドリア外膜に誤配送されたテイルアンカー型(TA)タンパク質が, Msp1によって外膜から引き抜かれた後に小胞体(ER)に移動する分子機構を解析した.今回,我々は誤配送TAタンパク質がMsp1依存的にミトコンドリアからERに移動する様子をリアルタイムで捉えるために,タイムラプス解析を行った.Msp1とMsp1のモデル基質Pex15Δ30(ペルオキシソームに局在するTAタンパク質Pex15のC末30アミノ酸を欠失した変異体)を2種類の異なる薬剤誘導型プロモーターから発現させ,外膜に誤配送されたPex15Δ30がMsp1依存的にERに移動することを示した.次に, Msp1から引き抜かれたPex15Δ30がGET(Guided Entry of Tail-Anchored proteins)経路を介してERに移動することを見出した. Msp1がミトコンドリアのタンパク質輸送に障害が起きた時に生じる前駆体を基質にするのかを検証するために,ミトコンドリア内膜に移行するモデル基質(Cytochrome b2-DHFR融合タンパク質; b2-DHFR)をガラクトース誘導型プロモーターで過剰発現する酵母株(b2-DHFR発現酵母)を作製し,細胞内にミトコンドリアタンパク質前駆体を蓄積させる実験系を構築した.b2-DHFR発現酵母を用いて現在までに, ミトコンドリア外膜に蓄積した前駆体がMsp1によって, クリアランスされることを見出し, そのような前駆体はプロテアソーム分解経路に回るだけではなく, ミトコンドリアに取り込まれる状態を保っていることがわかってきた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに,ミトコンドリア外膜に誤配送されたTAタンパク質がMsp1依存的にERに移動することを明らかにしていたが, どのようにしてERに移動するのか, その分子機構は不明であった(Matsumoto et al., Mol. Cell, 2019).近年我々は, Msp1によってサイトゾルに引き抜かれた誤配送TAタンパク質がGET経路を介してERに移動すること, b2-DHFRの過剰発現によって, Mdj1前駆体が外膜に蓄積し, Msp1依存的にクリアランスされることを見出した.以上の点において, 研究の進展が見られた.
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