研究実績の概要 |
本研究は,ミトコンドリア外膜に存在するAAA-ATPアーゼMsp1を介した誤配送タンパク質の配送やり直し(校正)の分子基盤を解明することを目的とした.昨年度に引き続き,本年度はミトコンドリア外膜に誤配送されたテイルアンカー型(TA)タンパク質が,Msp1によって外膜から引き抜かれた後にGuided Entry of Tail-Anchored proteins(GET)経路を介して小胞体(ER)に移動する分子機構を解析した.まず,Msp1のモデル基質Pex15Δ30(ペルオキシソームに局在するTAタンパク質Pex15のC末30アミノ酸を欠失した変異体)がMsp1依存的にERへ移動する様子をタイムラプスで観察した.タイムラプス撮影前に残存するPex15Δ30のmRNAは誘導前の5%まで減衰していること,タイムラプス期間におけるPex15Δ30のタンパク質量は増加しないことからも,新規に合成されたPex15Δ30がERへ直接標的化したものでなく,ミトコンドリア外膜に誤配送されたPex15Δ30がERへ移動したことを支持している.次に, GET経路の変異体では,Pex15Δ30のER局在が起こらないこと,そしてMsp1依存的にGet3とPex15Δ30がサイトゾルで相互作用することを免疫沈降実験により示した.最後に,オーキシン分解系を用いてGet3をacute lossさせ,内在性のER局在型TAタンパク質Frt1をミトコンドリア外膜に誤配送させる系を構築し,誤配送Frt1がMsp1-Get3依存的にERへ再配送されることをタイムラプス観察により示した.以上の結果は,近年JCB誌に受理された(Matsumoto, S., Ono, S., et al., J. Cell Biol., 2022 in press).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに,ミトコンドリア外膜に誤配送されたTAタンパク質がMsp1依存的にERに移動することを明らかにしていたが,どのようにしてERに移動するのか,その分子機構は不明であった(Matsumoto, S., et al., Mol. Cell, 2019).近年我々は,Msp1によってサイトゾルに引き抜かれた誤配送TAタンパク質がGET経路を介してERに移動することを見出し,それを示す結果をまとめて,最近論文発表を行った(Matsumoto, S., Ono, S., et al., J. Cell Biol., 2022 in press). 研究開始当初は,Msp1がミトコンドリア移行に失敗した前駆体を外膜から引き抜くことで,分解ではなく配送のやり直しの機会を与える因子であるという仮説のもと研究を計画したが,現在までのところ,Mdj1前駆体以外にMsp1依存的にクリアランスされる基質が見つかったいないため,計画が遅れている.
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