本研究では、カルシウム非依存的な新規の細胞膜/細胞壁損傷修復制御機構を発見することを目指して研究を行った。様々なpHの培地で細胞膜/細胞壁損傷への耐性を調べたところ、低pH培地で耐性が向上したことから、損傷部位からのプロトン流入依存的な損傷修復制御機構の存在が示唆された。低pH培地で細胞膜/細胞壁が損傷した際に、一部の細胞質タンパク質の凝縮体の形成が増加したことから、プロトン流入によるタンパク質の凝集やゲル化、液液相分離が損傷修復制御において重要な役割を果たす可能性がある。 また、プロトン依存的な機構とは別に、出芽酵母の細胞極性形成部位(出芽部位、細胞膜/細胞壁損傷修復部位、接合突起先端)の細胞膜から小胞体が剥離し、小胞体フリーな細胞膜ドメインがつくられることを発見した。蛍光顕微鏡観察、FRAP、オプトジェネティクスなどを利用して、エキソサイトーシスによる細胞膜リモデリングによって小胞体-細胞膜間を接着する因子が極性形成部位から排除されることで、小胞体が局所的に細胞膜から剥離することを明らかにした。また、細胞膜に接着した小胞体は他の細胞骨格やオルガネラの細胞膜への結合を物理的に阻害することが知られているが、この小胞体の局所的な剥離によって競合が起こらなくなり、細胞骨格が細胞膜上で正常に高次構造を形成できるようになることを示唆するデータを得た。この機構は、損傷修復部位を含む極性形成部位における極性形成/維持に関わることが推察される。
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