研究課題/領域番号 |
20K15798
|
研究機関 | 富山県薬事総合研究開発センター |
研究代表者 |
小島 理恵子 富山県薬事総合研究開発センター, その他部局等, 主任研究員 (60769652)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | ミトコンドリア / リン脂質 |
研究実績の概要 |
本研究は,脂質の合成,分配,輸送に関する新たな知見を得ることを目的としている。これまでに,異なるオルガネラ膜同士を物理的に結合するメンブレンコンタクトサイト(MCS)が破綻した酵母細胞(ミトコンドリア-小胞体間のMCSを形成するERMESやEMC,ミトコンドリア-液胞間のMCSを形成するvCLAMPを構成する因子を欠損した細胞)について,液体クロマトグラフ飛行時間型質量分析計(LC-TOF/MS)を用いてリン脂質解析を行ったが,これまで報告されているリン脂質種以外に有意に量が変化するリン脂質は見つけられなかった。一方,リン脂質合成に関与する因子を欠損した細胞において,新規の脂質合成ルートの存在を示唆する新たな知見を得た。 当該年度は,疾患と関連している遺伝子に着目して研究を進めた。あるヒトの神経変性疾患病因遺伝子の酵母オルソログのゲノムに疾患関連変異を導入したところ,強い増殖阻害を示した。そこでさらに表現型を調べたところに,この疾患関連変異体はミトコンドリアの呼吸活性低下に加えて,ミトコンドリアの形態異常を示すことが分かった。また,この疾患関連変異がミトコンドリアリン脂質合成に関わる遺伝子と遺伝的相互作用を示すことを明らかにし,疾患関連遺伝子の機能がミトコンドリアリン脂質合成に関連している新たな可能性を見出した。 また,ミトコンドリアに特徴的なリン脂質カルジオリピンの合成に必要なCDP-ジアシルグリセロール合成酵素Tam41(Firmicutes bacterium 由来)のX結晶構造解析を行い,その分子基盤を解明した論文を共著で発表した(Kimura et al., J Biochem, 2022)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①当該年度に計画していた,MCS形成因子欠損細胞(ミトコンドリア-小胞体間のMCSを形成するERMESやEMC,ミトコンドリア-液胞間のMCSを形成するvCLAMPを構成する因子を欠損した細胞)のリン脂質解析を行ったため。②ヒト神経変性疾患病因遺伝子の酵母オルソログの機能がミトコンドリアリン脂質合成に関連している可能性を新たに見出したため。③カルジオリピンの合成に必要な酵素の分子基盤を解明し,共著で発表したため(Kimura et al., J Biochem, 2022)。
|
今後の研究の推進方策 |
機能的にミトコンドリアのリン脂質合成に関連している可能性が新たに見出された,神経変性疾患関連遺伝子の酵母オルソログについて,機能を掘り下げていく予定である。 具体的には,次の①―③を実施する。①作製した疾患関連変異酵母細胞を用いて,ミトコンドリア内リン脂質合成に関わる遺伝子群との遺伝的相互作用解析を行い,当該遺伝子の機能がリン脂質の合成のどの経路と関わっているのかを調べる。②疾患関連変異酵母細胞におけるリン脂質解析を行う。③疾患関連変異酵母細胞のプロテオーム解析を行い,ミトコンドリア内リン脂質合成に関わるタンパク質の発現量が変化しているか調べる。リン脂質合成以外にも,新規機能に関与するタンパク質が同定できる可能性がある。
|
次年度使用額が生じた理由 |
【次年度使用額が生じた理由】①COVID-19流行の影響により,学会参加や研究打ち合わせのための旅費の使用がなくなったため。②実験計画当初の想定より安価な試薬や消耗品を購入できたため。 【使用計画】今年度の助成金は主に物品購入に充てるが,一部は情報収集のための学会参加や研究打ち合わせのための旅費にも使用を検討している。
|