線虫(Caenorhabditis elegans)精子特異的な塩基性タンパク質である3種類のSPCH(SPCH-1、SPCH-2、SPCH-3)は哺乳類精子のプロタミン様因子と考えられているが、実際にプロタミンの機能を持つかどうかは明らかになっていない。また、生殖機能がアルギニンメチル化によって制御されているかどうかも不明な点が多い。本研究では、「線虫の配偶子形成や受精におけるSPCHの機能解析およびSPCHのアルギニンメチル化修飾の生物学的意義の解析」について組換えタンパク質や線虫を用いてin vitro、in vivoでのアプローチをする。これまでの研究実績は以下のとおりである。 1.in vitroメチル化実験の結果、線虫PRMT-1はSPCH-2とSPCH-3をメチル化した。そこで、配列アライメントからSPCH-1には存在せずSPCH-2とSPCH-3に共通して存在する43位アルギニン(R43)をリジンに置換したところ、PRMT-1によるメチル化が消失したことから、SPCH-2、SPCH-3のR43がアルギニンメチル化部位と特定された。 2.spch-1、spch-2、spch-3各変異体を用いた表現型解析の結果、spch-2変異体の産仔数が野生型より顕著に低下していたことから、spch-2は線虫の生殖機能に大きく寄与していることが示唆された。 3.ウサギ網状赤血球ライセートを用いて、in vitroで発現させたSPCH組換えタンパク質をDNaseまたはRNaseで処理し、ウエスタンブロットで検出したところ、RNase処理したSPCHは未処理およびDNase処理よりバンドがシフトダウンしたことから、SPCHはRNA結合活性を持つ可能性が示唆された。
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