初年度に、ES細胞からの生殖細胞試験管内誘導系を用いて、雌性性決定因子として転写因子ZGLP1を同定した論文を発表し、また、ZGLP1によって制御され胎生期卵母細胞の分化に関与すると考えられる遺伝子群を多く同定した。新たに同定した遺伝子群は(1)胎生期の卵母細胞のみで一過性に発現のある遺伝子群、(2)胎生期以降、成体においても発現が維持または発現が上昇される遺伝子群に大別することができた。令和3年度、令和4年度は、前年度に同定したZGLP1の下流制御遺伝子の中から転写因子群に注力して解析を進めた。遺伝子破壊をしたES細胞株の核型解析、変異アレルの詳細な解析の後に、試験管内誘導系を用いて始原生殖細胞へと分化させ、胎児卵巣体細胞との共培養による卵母細胞分化誘導を実施した。まず、遺伝子発現解析から想定された通り、どの遺伝子変異も始原生殖細胞への分化には影響を与えないことが明らかになった。しかし、遺伝子変異を導入した株の中には卵母細胞への性分化を開始させるとすぐに生殖細胞が死滅してしまった変異株もあれば、逆に、野生型よりも卵母細胞の数が多くとれてくる変異株もあり、新たに同定してきた遺伝子群は卵形成過程の幅広い局面に関わることを示す結果を得た。同定してきた遺伝子は、大別すると(1)卵母細胞への性決定または減数分裂の誘導、(2)減数分裂の進行、(3)卵母細胞の生存または細胞数の制御、(4)卵母細胞成長の制御、において働く可能性が示唆された。今後は同定してきた因子の中で遺伝子破壊を施すと卵形成が顕著に阻害される二つの転写因子に注力して、論文化に向けて研究を進める。
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