昨年度の研究から、網膜の細胞の曲率がTaglnの発現に関与する可能性を見出した。その検証のために、網膜の細胞を分散し、培養ディッシュに播種することで細胞の曲率を極端に変化させる実験を行なった。その結果、ディッシュ付着直後はTaglnを発現していなかった細胞が、その後1日以内にTaglnを発現するようになることがわかった。この時のTaglnの発現は、組織での発現と異なり、Y-27632の添加で抑制されなかった。これらの結果から、細胞骨格系の収縮による組織の曲率変化がTaglnの発現に先立っており、組織の変形に伴う自発曲率からのずれがTaglnの発現を誘導している可能性が示唆された。 また、分化にマトリゲルの添加を必要としないヒトES細胞からの網膜分化系をマウスES由来のオルガノイドに代えて実験に用いることが可能か検討を行なった。これまでに確立されている網膜分化系ではTaglnの発現がほとんどみられなかったため、Taglnの発現する分化条件を検討した。その結果、分化途中でCHIR-99021を添加することで、組織の変形およびTaglnの発現が誘導されることがわかった。 Taglnの機能について検証するために、ヒトES由来の網膜組織に対し、エレクトロ歩レーションによるTaglnの過剰発現実験を行なった。その結果、Taglnが過剰発現している領域で、網膜組織の厚みが薄くなる現象が見られた。網膜の厚みの減少は、細胞の曲率が変化している可能性を示唆しているため、Taglnの発現と上皮の曲率・厚みの間に相関があることが示唆された。 これまでの研究により、組織の変形に伴う細胞の形体変化がTaglnの発現を誘導すること・またTagln自身も細胞の形態を変化させることが示唆され、網膜組織における一過的な菌収縮関連遺伝子の発現は、組織の変形に適応するための細胞の仕組みの一端である可能性が示唆された。
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