始原生殖細胞は生殖細胞(精子や卵など)の元となる細胞である。始原生殖細胞は形成後、遺伝情報を保持するために大規模な転写抑制状態が保たれている。特に線虫C. elegansでは、転写抑制制御に伴って高密度に凝集した染色体構造が形成される。本研究では、この構造の形成に不可欠なクロマチン制御因子としてクロモドメイン蛋白質MRG-1に注目し、MRG-1と協調してクロマチン制御に関与する因子を同定することで、始原生殖細胞のゲノム安定性を保障するクロマチン制御機構の理解を目指す。 令和4年度は昨年度に引き続き、RNAiスクリーニングをはじめとした解析により①MRG-1と協調して機能するクロマチン制御因子として、ジンクフィンガー蛋白質ZFP-1を同定した。さらに、ZFP-1の阻害がmrg-1変異体特異的に、生殖細胞の形成異常を引き起こしたことから、②MRG-1とZFP-1が生殖細胞形成において協調的に機能する可能性が示された。ZFP-1はヒストンH3リジン79のメチル化に不可欠であるが、その機能については知見が乏しい。そこで、線虫始原生殖細胞におけるH3K79のメチル化レベルを探ると共に、どのような遺伝子の発現制御に関与するのかを検証することで、始原生殖細胞におけるクロマチン制御の理解につなげたい。また、MRG-1と協調して機能する因子として同定されたヒストンアセチル化酵素CBP-1、並びにZFP-1は共にストレス応答の抑制に機能することから、mrg-1変異体におけるストレス応答反応について解析を行ったところ、③mrg-1変異体ではストレス応答制転写因子DAF-16の活性化、及び外的温度に対する感受性が低下することが明らかになった。
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