本研究では植物の発生を多面的に制御するペプチドの一つEPFL2ペプチドの機能と、植物ホルモンのオーキシンの分布パターン制御との関連に注目して、形態形成のパターンが生じる新たな原理の解明を目指している。シミュレーションによって、EPFL2がどのように葉の鋸歯形成パターンに影響を与えるかを説明するモデルを構築することも計画の一部であった。 数理モデルによるシミュレーションについては、当初シンプルなチューリングパターンを利用したモデルから、epfl2変異体の表現型の説明においてEPFL2とオーキシンの相互抑制が有効であることが示唆された。2022年度にはさらに研究協力者と共に、より分子的実態を想定したモデルの構築に取り組み、実験観察データとの整合性の良好なモデルが得られた。また追加の実験観察とシミュレーションから、このモデルはEPFL2を過剰に発現させた場合の表現型をも説明しうるものであることが期待された。さらにEPFL2のホモログ遺伝子であるEPFL1についても類似の、しかし少し異なる機能があることを示唆する実験結果も得た。 また技術開発によって研究を推進することも目指した。EPFLペプチドの人為的発現およびその効果の定量解析のための実験系構築に向けて、ペプチド発現を定量的に可視化するベクターを開発し良好な結果を得た。他にも単細胞レベルでEPFL2等の遺伝子発現を操作する実験系を構築して研究を推進するため、IR-LEGOと呼ばれる顕微鏡システムを用いた実験系の構築を研究協力者と共に進めた。この開発した技術を広く公開するため論文を執筆し、査読を経て掲載予定の段階に進めた。
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