本研究ではWntシグナルによる細胞の形態形成の制御機構を明らかにすることを目的とし、マウス発生期の神経管におけるroof plate細胞の形態変化に着目して研究を行った。前年度までに、細胞外へのWntの分泌に必須の因子であるWntlessをroof plate細胞特異的にノックアウトした(Wls cKO)マウスの解析から、roof plate細胞の頂端面ではWntシグナル依存的なミオシンのリン酸化を介して細胞の頂端収縮が引き起こされることが示唆された。そこで、Wntシグナルによる細胞の頂端収縮の分子機構を明らかにするため、種々のWntシグナル関連因子のKOマウスを用いた解析を行った。まず、roof plate特異的に発現するWntリガンドであるWnt1、Wnt3aダブルKOマウスの解析から、これらのWntがroof plateのミオシンのリン酸化に必要であることが見出された。次に、roof plate特異的なβ-catenin cKOマウスの解析、およびWls cKOマウスでの恒常活性型β-cateninによるレスキュー実験を行い、roof plate細胞の頂端収縮はβ-catenin依存的なWntシグナルによって引き起こされることを見出した。さらに、GFP-Wnt3a ノックインマウスを用いたWntタンパク質の空間分布の解析から、ミオシンのリン酸化と同時期にroof plate細胞の頂端側にWntタンパク質が集積することを見出した。このWntタンパク質の集積と頂端収縮は、ヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)の糖鎖伸長酵素であるExt1のcKOマウスで阻害されることから、HSPGを介したWntタンパク質の集積が頂端収縮に関与する可能性が示唆された。このように、Wntシグナルを介したroof plate細胞の頂端収縮の制御機構を明らかにすることができた。
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