研究課題/領域番号 |
20K15815
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
近藤 侑貴 神戸大学, 理学研究科, 准教授 (70733575)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 維管束 / 幹細胞 / 運命操作 / 構成生物学 |
研究実績の概要 |
維管束は物質輸送を担う重要な通道組織系であり、多様な機能的細胞によって構成される。これらの維管束細胞は、共通して維管束幹細胞から作られるが、維管束は体の奥深くに埋め込まれているため、幹細胞運命を研究するのは困難であった。そこで本研究では、維管束分化誘導システムVISUALとそれを改良したVISUAL-CCを用いて、自在に木部細胞・篩部細胞そして篩部伴細胞を作り、運命を操作することで、維管束発生過程を構成生物学的な観点から研究し、理解を深めていくことを目的とした。まず、新規に開発した篩部伴細胞を誘導することのできるVISUAL-CCについて論文発表をおこない、プレスリリース「細胞の職業選択を決めるスイッチの発見」を公表した。篩要素と篩部伴細胞は共通の前駆細胞から不等分裂を経て作られると考えられているが、この論文では、この2つの運命の振り分けがGSK3のキナーゼ活性に依存することを遺伝学的手法によって示した。また、VISUALにおける維管束幹細胞の木部・篩部細胞への分化運命についても解析を進めた。葉の表・裏の位置情報が維管束幹細胞の運命に影響するため、レーザーマイクロダイセクションにより葉を表と裏にわけて微小空間トランスクリプトームをおこない、運命決定の鍵となる因子を探索した。分化誘導時に裏のみで発現する候補因子に対して、誘導過剰発現株を作製したところ、実際にVISUAL分化誘導条件下で維管束幹細胞の運命を篩部細胞へと優先的に変化させることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
VISUAL-CCについて論文発表をおこなったものの、まだ伴細胞の誘導比率の効率が悪く、トランスクリプトームデータから篩部伴細胞の機能を明らかにするまでには至っていない。現在、ホルモン条件や用いる組織等を工夫することでVISUAL-CC条件の改良を試みている。 一方で、葉の位置情報と維管束幹細胞運命との関連性は、予定通り葉の表と裏に分けたレーザーキャプチャーマイクロダイセクションとSMART-seqをおえた。発現データも表・裏のマーカー遺伝子で確認できており、実際に運命決定因子となる候補遺伝子の単離に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
VISUAL-CCの改良を進め、現在10%程度の分化率を高めていく。それにより、トランスクリプトーム解析やライブイメージングをおこなうことで篩部伴細胞のこれまでに明らかにされていない機能や特性にせまる。 位置情報と幹細胞運命の制御に関しては、1つ過剰発現で運命が変わる因子を発見することができた。今後は、この因子に対してゲノム編集による遺伝子破壊や因子を過剰発現させた際のトランスクリプトームデータを取得することで、位置情報と幹細胞運命の関係性を明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ感染拡大影響に伴い、予定していた出張や対面での学会がなくなり旅費に係る支出が0となっている。また納品予定であった植物育成用のLEDやシェイカーなどがこちらもコロナ感染拡大の影響により、受注生産が遅れているため次年度の経費に回す予定である。これらの持ち越した予算は、部分的な研究の遅れを取り戻しコロナ禍でも計画通りに研究を遂行するために使用する。
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