研究課題/領域番号 |
20K15817
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
武内 秀憲 名古屋大学, 高等研究院(WPI), 特任助教 (10710254)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 受容体 / シグナル伝達 / 花粉管 / 先端成長 / シロイヌナズナ |
研究実績の概要 |
被子植物の生殖は、雄の細胞「花粉管」が先端成長により雌しべの中を進み、内包する精細胞を胚珠内部の卵細胞へと運ぶことで行われる。花粉管の先端成長は細胞自律的な「伸長」と外部シグナルによる「方向制御(誘引)」によって調節される。花粉管誘引ペプチドLURE1の受容体として同定されたPRK6受容体は、他のPRKファミリーの受容体と協調しながら伸長も制御することが明らかとなった。しかしながら、伸長と誘引につながるシグナル伝達がどのように調節されているのかは不明である。 本研究では、PRKファミリー受容体の細胞内シグナル伝達に関わる分子を探索、解析することで、花粉管の伸長と誘引が統合制御される仕組みの解明を目指した。具体的には、PRK受容体の下流にあると考えられる低分子量GTPアーゼROPタンパク質やその活性化因子ROPGEFなどに注目し、多重変異体を用いた遺伝学的解析や、相互作用・リン酸化アッセイなどの生化学的解析を通じて、外部シグナル-PRK受容体-細胞内ROPの分子ダイナミクスとシグナル統合機構を調べた。 2020年度までに、花粉管で発現する5つ全てのROPGEF遺伝子を破壊しても花粉管の伸長と誘引の効率はともに低下するだけで、完全に損なわれないことを見出していた。蛍光タンパク質融合させたROPGEF遺伝子を用いて表現型の相補実験を行ったところ、ROPGEF8と12が花粉管の先端部に局在し、伸長およびLURE1応答に特に重要な機能を果たしていることを明らかにした。またROPGEF8のC末端ドメインがその制御に重要な役割を果たすことも示された。これらの結果から、PRK受容体と細胞内ROPとのハブとなるROPGEFが、各受容体、時期や細胞外シグナルに応じて使い分けられることで細胞内シグナル伝達のモードが精細に調節されていることが初めて示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
花粉管のROPシグナル伝達に関わる因子群の機能解析が予定通り進んだ。花粉管ROPGEFが伸長・誘引に必須ではないが効率の調節に重要であることは予想外の結果であったが、多重遺伝子に対する遺伝学的解析を正確に実施したため初めて明示できたものである。最近、他グループの研究によりROPGEFが花粉管の破裂制御にも関わることが示唆されたが、我々のropgef機能欠損変異体を用いた解析では破裂の表現型は観察されていない。また、各種の生理学実験を通じて、PRKs-ROPGEF-ROPの単純なシグナル伝達とフィードバック制御では理解できないロバストな調節機構が見えてきた。 逆遺伝学的アプローチにより、さらなる細胞内コンポーネントの探索も計画通り進んでおり、花粉管の伸長・誘引および破裂における複数の受容体シグナリングを包括的に解析する準備が進んでいる。これに対する因子の蛍光標識株などの確立も進んでおり、次年度、受容体シグナリングのクロストークによる花粉管の先端成長調節の仕組みを理解する準備は整ったと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
PRKs-ROPGEF-ROPのシグナル伝達に加え、ANX1/2およびBUPS1/2と名付けられたCrRLK1Lファミリーの受容体シグナル伝達にも着目する。PRKファミリーの受容体と同様に、CrRLK1Lファミリーの受容体もROPGEF-ROPを介して細胞内にシグナル伝達すると考えられているが、花粉管における詳細は知られていない。そこで、これまでに確立した変異体や蛍光標識株のリソースも活用し、2つのファミリーによるROPGEF-ROPシグナル伝達の使い分けや協調利用の仕組みを調査する。 ROPGEF8のC末端ドメインが花粉管制御における機能に重要であることが示唆されたため、花粉管で発現する各ROPGEFs、それらの各ドメインの重要性を相補実験により順次調べるとともに、PRKsやCrRLK1Lsとの相互作用の有無も調べる。これらの解析により、花粉管の挙動を統合して制御するための分子モジュール作動の仕組みを初めて明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症への対応により、物品費や旅費が当初見込んでいたものよりも少なくなったため、次年度使用額が生じた。また、当該年度は既存の物品・技術により研究を進めることになり、物品を購入して行う解析や実験材料の管理に係る研究補助員の雇用が次年度に集約されると見込み、予算を繰り越した。
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