被子植物の有性生殖において、花粉管の挙動の制御は受精を達成するために必須である。花粉管は先端成長により雌の組織内部を進む単細胞であり、細胞自律的な「伸長」と雌の細胞から分泌されるシグナル分子への「誘引(伸長方向の制御)」により挙動が精密に調節される。本研究では、花粉管の伸長・誘引のマスタースイッチとしてはたらくと考えられている低分子量GTPaseタンパク質ROPのシグナル伝達に着目し、その時空間的なダイナミクスと誘引ペプチド-細胞膜受容体による調節の仕組みの解明を目指した。 2021年度までに、ROPの活性化因子であるROPGEFsの局在解析や多重遺伝子破壊株の表現型解析を行い、花粉管の伸長端に集積するROPGEF8、9、12が伸長・誘引の調節に重要な機能を果たすことを見出した。最終年度である2022年度、花粉管の制御の各段階における機能を解析したところ、ROPGEF8と9が花粉管の発芽および伸長に、ROPGEF12が誘引ペプチド(AtLURE1)への応答を主に担っているという機能分担を明らかにした。このとき、ROPGEF8に関して、C末端領域が花粉管の伸長端への集積ならびに伸長の制御に、N末端領域がAtLURE1ペプチドへの応答に関与することが示唆された。またropgef多重変異体の花粉管では、活性化ROPの先端部への集積は弱く広がり、アクチンなどのROP下流因子のダイナミクスにも異常が観察された。 本研究によって、花粉管の細胞自律的な調節と外部シグナルによる調節がROPGEFs-ROPsを介して統合制御されていることが明示された。伸長・誘引・破裂のそれぞれに関与する複数の細胞膜受容体によりROPGEFの局在と活性化が時空間的に調節されることで、一連の花粉管の挙動はバランス調節されていることが初めて示唆された。
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