本年度は、明期に蓄積するシグナルについての知見を得るため、前年度に作出したゲノム編集によるpif変異体と野生型を用いて、遠赤色光の高照射に依存して発現が変動する遺伝子群を同定するためにRNA-seq解析を行った。その結果、複数の植物ホルモンの生合成遺伝子が遠赤色光の高照射条件下のみで高発現することが明らかになった。また、これらの植物ホルモンの生合成酵素遺伝子は、遠赤色光高照射の比較的早いタイミングで発現変動が生じることを見出した。これらの結果から、ゼニゴケは生殖成長を誘導する日長条件において、まず植物ホルモンの内生量が大きく変動することが予想され、これが明期における蓄積性のシグナルの実態である可能性が考えられた。 本研究では、非24時間の日周条件における表現型解析、時計遺伝子変異体の表現型解析、薬剤による内生リズムの撹乱が日長認識に与える影響などから、概日時計による内生リズムの形成がゼニゴケの日長認識に大きく関与しないことを明らかにした。また、ゼニゴケの日長認識に重要な光質が遠赤色光であることを見出し、遠赤色光照射には明確なゲート効果がみられず、連続的な照射時間が重要であることを明らかにした。さらに、ゼニゴケの日長認識は概ね明期と暗期の長さのバランスで決まることを明らかにし、ゼニゴケは明期に何らかのシグナルが蓄積し、蓄積したシグナルが暗期で分解するような砂時計式の日長認識機構をもつこと可能性を見出した。また、明期に蓄積するシグナルの候補として複数の植物ホルモンを同定した。以上より、基部陸上植物であるゼニゴケは主に遠赤色光の照射時間を利用して日長を認識しており、概日時計によって生じた内生リズムと光シグナルの符号によって日長を認識する被子植物とは異なる日長認識機構をもつと考えられる。
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