研究課題/領域番号 |
20K15820
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
門田 慧奈 九州大学, 理学研究院, 助教 (30782255)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 気孔 / 二酸化炭素 / アブシシン酸 |
研究実績の概要 |
本研究では植物気孔のもつ「ストレスに対処する」機構と「二酸化炭素取り込み量を制御する」機構を分離し、後者のメカニズムの完全解明に向けた知見を得るため、順遺伝学的アプローチによって「ストレス対処機構」の中枢であるアブシシン酸応答機構と独立した「純粋な二酸化炭素応答機構」に関わる新規遺伝子を同定し、その機能を精査する。令和2年度までに野生株と異なる二酸化炭素応答挙動を示すシロイヌナズナ変異体を2系統単離し、またPCRによる遺伝子マッピングと次世代シーケンスによる塩基配列解析によって原因遺伝子の候補を数種類にまで絞り込んだ。令和3年度では引き続き遺伝子マッピング等による原因遺伝子候補のさらなる絞り込みを行い、各系統の原因遺伝子候補を1つに絞り込んだ。さらに正常型の原因遺伝子候補を単離した系統に導入することで二酸化炭素に対する気孔応答性が野生型に復帰することを確かめ(相補性検定)、この結果より候補遺伝子が確かに原因遺伝子であることを確認した。今後は同定遺伝子の機能解析を迅速に進めていく予定であるが、同定した遺伝子はどちらもこれまで気孔応答との関連が直接報告されておらず、これらの遺伝子の機能を解析することで植物の二酸化炭素応答機構に関する新たな知見を得られることが期待される。また単離した系統ではストレスホルモンであるアブシシン酸に対する気孔応答は正常であり、これら単離系統の原因遺伝子の改変によって、二酸化炭素応答特異的に気孔応答を改変でき、ストレス耐性能を保持したまま二酸化炭素取り込み効率を向上できる可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度では、野生株と異なる二酸化炭素応答挙動を示すシロイヌナズナ2系統の原因遺伝子を同定することに成功した。これらの系統は、ストレスホルモンであるアブシシン酸に対して正常に気孔閉鎖できることがわかっており、また二酸化炭素以外の環境シグナルに対する気孔応答についても、調べた限りでは野生株と大きな違いは出ていない。よって、これらの原因遺伝子は二酸化炭素シグナル特異的な気孔応答に関与する可能性が示唆される。これら単離系統の原因遺伝子の改変によって、二酸化炭素応答特異的に気孔応答を改変でき、ストレス耐性能を保持したまま二酸化炭素取り込み効率を向上できる可能性がある。現在、原因遺伝子の機能解析を行うための形質転換植物の作出を進めており、令和4年度中にT3世代の植物を用いて解析を実施できる見込みである。以上のことより、令和3年度における主要な実験計画は達成でき、研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度では同定した遺伝子の機能解析を中心とした実験を行う。まず、同定遺伝子の発現の組織特異性や遺伝子産物の孔辺細胞内局在を調べる。現在この解析のための形質転換植物を作出中であり、年度内に解析を行える見込みである。また同定遺伝子が既知の二酸化炭素応答関連遺伝子に与える影響を調べるため、リアルタイムPCRやRNA-Seq等によって、単離したシロイヌナズナ系統における、二酸化炭素応答に関わる既知の遺伝子の発現変化を解析する。さらに、この応答機構が働く際に葉内あるいは孔辺細胞内の代謝物質に起きている変化を調べる。また、気孔と周囲細胞間のシグナル伝達やタンパク質の協調行動に着目し、このようなコミュニケーション型気孔応答システムにおいて新規遺伝子が果たす役割を精査する。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度において新型コロナの影響で実験に必要なアブシシン酸が海外から入荷しなくなったため、変異体の選抜を中断する等、令和2年度の段階から実験計画の修正を行った。そのため令和3年度では、令和2年度に単離した系統の原因遺伝子同定に加え、令和2年度に中断した変異体選抜等の実験を、国内製造のアブシシン酸を用いて再開した。その結果、令和3年度で実施予定だった原因遺伝子機能解析の一部を令和4年度に実施することにしたため、予定よりも物品費、その他の支出が減少した。また国内外の学会発表がオンライン発表への変更があったこと等から、予定よりも旅費の支出が減少した。そこで令和4年度では、同定した遺伝子の機能解析を迅速に進めるため、遺伝子発現解析・代謝産物の定量解析等について委託解析を予定している。また原因遺伝子が既知の二酸化炭素応答関連遺伝子に与える影響を精査するため、リアルタイムPCR解析を行う予定であり、そのための試薬や機器を購入する。また国内外の学会(オンラインもしくは対面)に積極的に参加して研究成果を発表する。これらの経費として、令和4年度分助成金に加え、前年度未使用分の助成金を用いる。
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