研究課題/領域番号 |
20K15821
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
小田原 瑛美子 (養老瑛美子) 立教大学, 理学部, 助教 (40802054)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 胞子体 / ヒメツリガネゴケ |
研究実績の概要 |
陸上植物の基部に位置するコケ植物は1倍体が優占的であるが、被子植物は2倍体が優占的である。この陸上植物の進化過程における、生活環に占める核相の割合逆転の要因の一つに、2倍体世代のメリステムが有限型から無限型への転換が推測される。そこで、コケ植物ヒメツリガネゴケの2倍体メリステムの有限性を規定する分子機構を明らかにすることを目指してきた。既にNIN-like protein(NLP)相同遺伝子の一つ、PpNLPaが、2倍体メリステムの形成制御に関わる可能性を見出していた。 令和2年度は、PpNLPaのプロモーター領域をレポーター遺伝子接続したコンストラクトをヒメツリガネゴケゲノム上のニュートラルサイトに導入した株を作製し、PpNLPa が2倍体のメリステム付近と足で発現することを同定した。また、CRISPR-Cas9系を用いたゲノム編集によりPpNLPaのDNA結合ドメインを破壊したPpNLPa変異株2株を取得し、2倍体メリステムが拡大する表現型を再現した。 そこで、令和3年度は、PpNLPaの機能抑制およびPpNLPaのCRISPR変異株における2倍体メリステムが拡大する表現型に着目し、細胞分裂に関わる遺伝子のプロモーターレポーターラインとの交配を進め、2倍体メリステムが拡大と細胞分裂の関係の解析を進めた。その結果、2倍体メリステムが拡大する変異株では、細胞分裂活性の持続が認められた。 また、令和3年度は、PpNLPa機能抑制株とPpNLPa-YFP過剰発現株、野生株からそれぞれ若い胞子体を含む組織からRNAを抽出し、RNAシークエンスを委託実施した。現在その生データを解析中である。PpNLPa機能抑制株とPpNLPa-YFP過剰発現株変動で相反する発現変動を示す遺伝子を抽出し、2倍体メリステム維持に関わる最有力候補として同定を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス感染拡大による令和2年度初旬の緊急事態宣言発令、および令和3年度11月以降の産休育休取得により全体的に遅れが生じた。また、申請時に予定していたPpNLPa-YFP/GUSノックイン株による発現解析でレポーター遺伝子の発現が検出できず、プロモーターレポーター株作製に変更したことによっても、実験の進行に遅れが生じた。
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今後の研究の推進方策 |
まず、変異株作製による機能解析については、1,2年目でCRISPR-Cas9系を用いたゲノム編集株作製が、PpNLPa単独変異株しか取得できておらず、3年目はさらに多重変異株の取得を目指し、NLPa以外の他のNLPが冗長的な機能を果たしているかを明らかにする。また、1,2年目で得られた細胞分裂に関わる遺伝子のプロモーターレポーターラインと、PpNLPaの変異株や機能抑制株、過剰発現株を交配し、NLPaの機能と細胞分裂活性との関係について調べてきた。3年目は、この交配株を用いて2倍体メリステムの発生過程と細胞分裂マーカー遺伝子の発現の関係をさらに詳細に調べていく予定である。さらに、2年目に実施予定していたPpNLPa-YFP過剰発現株の硝酸応答性を調べるPpNLPaのタンパク質局在解析についても、3年目に実施する。 NLPaが制御する発現制御する遺伝子の網羅的な同定に関して、2年目に野生型、PpNLPa-機能抑制株、PpNLPa-YFP過剰発現株、の3者でRNAシークエンス解析を実施しデータを取得した。3年目に、このデータを解析し、PpNLPaによって制御されている下流候補遺伝子を同定する。同定された下流候補遺伝子について、レポーター遺伝子ノックイン株およびゲノム編集株作製を行い、遺伝子発現パターンや表現型から、2倍体メリステムの維持制御に関わるか否かを明らかにしていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2年目初旬の緊急事態宣言発令に伴い全体的に実験の開始に遅れが生じ、申請時には初年度に予定していたRNAシークエンス解析の実施が2年目にずれ込んだ。また、2年目後半に産休育休で研究を約6ヶ月間中断した。そのため実験消耗品等の購入ができず、次年度使用が生じた。3年目の使用額の大半は、申請時には2年目に予定していたRNAシークエンスの結果から得られるPpNLPaの下流候補遺伝子の機能解析のための変異株等の作製のための実験消耗品等に使用する。
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