植物細胞の細胞外に形成される細胞壁は時に非常に特徴的な蓄積パターンを見せる。本研究ではリグニンが特徴的に蓄積する道管細胞をモデルとし、細胞内での部位特異的な細胞壁修飾の分子実体の解明を目指した。道管細胞はリグニンを細胞外に多量に蓄積するが同一細胞内にリグニン化・非リグニン化領域をもつ。これまでの報告でリグニン化領域のみにおいて活性酸素種が発生することが示されているが、どのように活性酸素種の発生部位を限定しているかについては不明である。そこで本研究では道管細胞において限定的な場所で活性酸素種が発生する分子的基盤を明らかにすることを目指した。 本研究では、分子遺伝学的および生化学的なアプローチをとった。以前の阻害剤実験から、細胞外における活性酸素種の発生源は細胞膜に局在するNADPH oxidaseであることが示唆されていたため、シロイヌナズナでどのホモログが道管での特異的なリグニン蓄積に必要かを検討した。シロイヌナズナのゲノムには10のNADPH oxidaseがコードされているため道管で特に発現している3つの遺伝子に着目し、multi-site CRISPRを行った。これにより三重変異体を得ることができたが、道管には顕著な表現型が現れなかった。並行してproximal labeling法を用いた部位特異的なプロテオーム解析により特にリグニン化に存在するタンパク質を網羅的に同定するための材料づくりを行った。細胞壁空間のリグニン化領域を特異的にビオチン化するためにlaccase17にTurboIDを融合したタンパク質を培養細胞および植物体に発現させることを試みたが両者において発現が確認できる形質転換体を得ることができなかった。今後異なるproximal labeling法に切り替えることを考えている。
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