研究課題/領域番号 |
20K15824
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研究機関 | 基礎生物学研究所 |
研究代表者 |
南野 尚紀 基礎生物学研究所, 細胞動態研究部門, 特任助教 (20823256)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 膜交通 / RAB GTPase / 精子 / 鞭毛 / ゼニゴケ |
研究実績の概要 |
陸上植物の一部の系統は雄性配偶子として運動能をもつ精子を形成する。鞭毛と多層構造体は植物精子の運動能発現のために必須の構造であるが、その形成メカニズムについては未解明な点が多い。RAB23は膜交通制御因子のRAB GTPaseのサブファミリーのひとつである。これまでに。タイ類ゼニゴケのrab23変異体では鞭毛・多層構造体の構造異常がみられ、RAB23がこれらの形成に重要な役割を果たすと考えられる。本研究ではゼニゴケRAB23の詳細な分子機能の解明を通して、植物精子の鞭毛と多層構造体の形成システムを明らかにすることを目指している。 ゼニゴケRAB23のC末端側脂質修飾の役割を詳細に調べ、脂質修飾は膜との結合性さらには鞭毛局在に必要であることを示した。さらに、共免疫沈降産物の質量分析から見出したRAB23の相互作用因子の候補について、遺伝子破壊株を作出、その表現型を観察し、ゼニゴケrab23変異体と同様の精子の運動異常がみられるものを2つ見出した。 また、核と鞭毛の形態から精子変態のステージを定義し、これまでの観察結果が精子変態のどの時期に起こるのかについて整理した。その結果、RAB23は精子変態のかなり早い時期ではたらくことを見出した。さらに軸糸微小管の翻訳後修飾とゼニゴケRAB23との関連についても検証した。ゼニゴケrab23変異体で顕著な差は見られなかったものの、ゼニゴケ精子変態の各過程で翻訳後修飾の程度が大きく変化することを発見した。 クラミドモナスRAB23についても機能解析を進めた結果、クラミドモナスrab23変異体においてかけ合わせ効率の著しい低下がみられるという表現型を発見した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでの観察結果に不足していた時系列情報を得るために、核と鞭毛の形態を指標とした発生のステージを定義し、それを指標とした再観察を行った。その結果、ゼニゴケRAB23が鞭毛形成の初期で機能することや、rab23変異体でみられる異常がどの発生ステージから起こるのかを明らかにした。さらにゼニゴケRAB23の活性化状態と脂質修飾が、その機能や鞭毛への局在化に必須の役割を果たすことも明らかにした。 一方、rab23の変異体でみられる異常の直接的な原因については、これまでにいくつかの候補の細胞内局在の観察を試みたが、rab23変異体において目立った異常を示すものがなく、その解明には至っていない。他生物種において鞭毛構造の安定化や運動制御に重要な役割を果たす軸糸微小管の翻訳後修飾にも着目し、グルタミル化を特異的に認識できる抗体を用いた免疫染色観察を行ったが、ゼニゴケrab23変異体において差はみられなかった。一方、野生型の観察において、軸糸さらにはスプライン微小管のグルタミル化の度合が精子変態のステージ毎に異なることを発見した。この発見については、ゼニゴケ精子変態の発生ステージの定義と合わせプレプリントとして公表した(Minamino et al., biorxiv)。 ゼニゴケRAB23の相互作用因子候補については、遺伝子破壊株がゼニゴケrab23変異体と類似した精子の運動性の異常が起こる因子を2つ見出し、それらについて詳細な機能解析を進めている。 クラミドモナスRAB23についてもT-DNA挿入変異体の表現型解析を行った結果、取り寄せた元株でみられた運動性の異常がF2世代ではみられなくなるという予想に反した結果を得た。興味深いことに、変異体ではかけ合わせ効率が顕著に低下することを見出した。この表現型がクラミドモナスrab23の機能と関連するかについての検証を計画している。
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今後の研究の推進方策 |
変異体においてゼニゴケrab23変異体と似た精子の運動異常を示した2つの因子について、その機能解析を行う。これら因子の変異体の運動異常の原因について、電子顕微鏡により詳細に観察する。これら因子に蛍光タンパク質を融合させたものを発現させ、その局在を調べる。ゼニゴケrab23変異体においてその局在に変化がみられるかも調べる。またゼニゴケRAB23の細胞内局在がこれら因子の変異体背景で変化するかも調べる。 クラミドモナスRAB23については、クラミドモナスrab23変異体でみられた交配効率が顕著に低下するという表現型についてさらに詳細に調べる。再現性の確認とクラミドモナスRAB23を発現させることで交配効率の低下を回復させることができるか検証する。 最終的にはこれまでに得られた知見と合わせて、本研究の成果を原著論文として公表することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
ゼニゴケRAB23の相互作用因子の有力な候補を2つ見出すことができたが、これらの機能解析の進捗が遅延したため、それらが次年度使用額となった。またCOVID-19の影響により、研究打ち合わせや研究発表に関わる旅費経費の多くを執行しなかったため、それらが次年度使用額となった。補助事業期間を延長した22年度には、遅れているゼニゴケRAB23相互作用因子の候補の詳細な機能解析、クラミドモナスrab23変異体の表現型の検証を行う。これらの解析のために助成金の多くの使用を計画している。また研究打ち合わせや国内の学会発表の旅費経費、論文投稿に関わる費用についても執行する予定である。
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