研究課題/領域番号 |
20K15825
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研究機関 | 基礎生物学研究所 |
研究代表者 |
金澤 建彦 基礎生物学研究所, 細胞動態研究部門, 助教 (60802783)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | オルガネラ / 膜交通 / 細胞骨格 / ゼニゴケ / 油体 / 転写因子 |
研究実績の概要 |
真核細胞に存在する単膜系オルガネラへの正確な物質輸送・局在化の仕組みは、「膜交通」と呼ばれ、その基盤となる分子レベルの枠組みは、真核生物に高度に保存されている。真核生物のそれぞれの系統において、独自のオルガネラの獲得があったと考えられており、新規オルガネラ獲得と並行して新規膜交通経路の獲得があったと考えられる。本課題では、陸上植物における新規オルガネラ獲得とそれに伴う膜交通経路の開拓機構の解明を目指す。ゼニゴケの油体を新規獲得オルガネラのモデルとして、油体への輸送に関わる細胞骨格の役割解析、油体形成過程におけるオルガネラ動態解析、それらを支える分子群の機能解析を行っている。 当該年度は、油体形成過程の長時間ライブイメージング法の確立、および油体誘導系の確立を行った。微小管を可視化したゼニゴケを用いて、長時間タイムラプス観察を行った結果、表層微小管が、油体形成開始に伴い、油体を中心とした放射状構造に再編成されることを見出した。また、微小管重合阻害剤の処理により、正常な油体形成が阻害されることから、油体形成において、微小管が重要な役割を果たしていることが考えられた。 次に、油体形成の誘導系の確立を行った。油体形成マスター転写因子MpERF13の誘導系では、誘導後約24時間で、ゼニゴケ葉状体のほぼ全ての細胞に油体を形成させることが可能になった。油体形成誘導条件下で、微小管動態の可視化を行った結果、同様に微小管の再編成が観察された。この結果から、微小管再編成を実行する因子が、MpERF13制御下に存在することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
油体形成誘導系の確立により、油体形成時における様々な細胞骨格・オルガネラのダイナミクスについて詳細な解析を進めることができた。また、誘導系には油体形成マスター転写因子MpERF13を用いたが、一つの転写因子の誘導により微小管再編成を誘発することが可能であることから、MpERF13の下流に油体形成の実行因子および細胞骨格再編成に関与する因子が存在することが考えられる。Mperf13変異体を用いたRNA-Seqの解析から、それらの因子の探索を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、油体形成の実行因子および細胞骨格再編成に関与する因子の同定・機能解析に注力する。MpERF13の下流遺伝子群については、ゲノム編集を用いて網羅的にノックアウト変異体を作出しつつあり、その中には、油体形成不全を示すものも見出している。これら変異体内に、油体マーカー、細胞骨格マーカーを導入し、油体形成のどのプロセスに欠損があるのかについて詳細な解析を進める。 また、油体表在タンパク質の網羅的同定も進める。油体表在タンパク質と細胞板に局在するタンパク質を比較解析することで、植物のオルガネラ新規獲得の共通モジュールについての知見を得ることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度では、輸送方向の再配向の実行因子をプロテオーム解析により同定する計画であったが、植物栽培装置の光源の不調に起因する植物の生育不良により、実験を行うのに十分な量のサンプルを用意することができなかった。研究遂行上、十分な量の植物を用意することが不可欠なため、当該年度と次年度の一部実施計画を入れ替え、遺伝子組換え植物の大規模サンプルの調製を、次年度に実施する計画に変更した。
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