本課題では、陸上植物における新規オルガネラ獲得とそれに伴う膜交通経路の開拓の分子機構の解明を目指した。苔類ゼニゴケの油体を「系統独自に新規獲得されたオルガネラ」のモデルとして、各種オルガネラマーカーを用いた油体形成過程のライブイメージング観察、変異体スクリーニングによる油体形成異常変異体の単離および原因遺伝子の解析、得られた原因遺伝子の条件誘導系の開発、油体形成誘導条件における膜交通阻害剤および細胞骨格阻害剤処理による膜交通および細胞骨格の役割解明を行った。 油体は、細胞外方向の輸送経路である分泌経路を細胞内へ方向転換することにより形成されること、油体形成時には細胞骨格の再編成も誘導されることが明らかになった。分泌経路の細胞内・外方向の切り替えが周期的に起こることを示唆する結果を得ており、これを「油体周期」仮説として提唱した。さらに、初期分泌経路の変異体の解析により、油体に力学的強度が付与されていることを示す結果も得た。 本課題の研究成果により、膜交通の実行因子が遺伝子重複と変異の蓄積を繰り返すことで、新規オルガネラの獲得とそのオルガネラを発着する膜交通経路が誕生したとする「オルガネラ・パラロジー仮説」の実験的な証拠を示すと同時に、陸上植物は、細胞分裂時に出現する細胞板にも同様な分泌経路の切り替えが行われていることから、陸上植物の新規オルガネラ獲得に、細胞内方向へ分泌経路を転用するという共通の現象が用いられていることを提唱した。
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