研究課題/領域番号 |
20K15833
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
相澤 清香 岡山大学, 自然科学学域, 准教授 (90754375)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 肥満 / 摂食 / 代謝 / 概日リズム / 下垂体 / 内分泌 |
研究実績の概要 |
我々が独自に作製したNMU欠損ラットを用いて,NMU欠損による代謝,摂食,肥満への影響の解析を実施した。しかしながらその結果は予測していたものとは異なる点も多く,非常に興味深い。たとえばはじめにおこなった肥満度の計測では,離乳時である生後4週齢から24週齢まで長期にわたり継時的に測定した。産子数の調整を行なっていないこともあり,離乳時時点から個体差が大きく見られるものの,測定個体数を多くとり統計学的に解析したところ,NMU欠損ラットは同腹子の野生型と比較して測定したいずれの週齢においても体重の増加をみせなかった。 さらに本年度は詳細な肥満度の解析として,脂肪蓄積に関与する組織である肝臓,脂肪(とくに内臓脂肪)の重量の比較やHE染色法による組織学的解析を行なった。NMU欠損ラットの肝臓重量に異常はみられず,HE染色による組織学的観察においても,たとえば脂肪滴の肥大化や数の増加といった脂肪肝を思わせるような異常は観察されなかった。内臓脂肪については精巣上体脂肪,後腹膜脂肪,腎周囲脂肪に分けて解析を行なったが,いずれの白色脂肪の重量も野生型と比較して違いはなかった。脂肪細胞の大きさもHE染色による組織学的手法により解析したが,脂肪細胞の肥大化などの異常は観察されなかった。代謝への影響も解析し,循環血中代謝マーカーを測定した。ラットから採血をし血清を調整して,トリグリセリド,グルコース,トータルコレステロールなども生化学的手法により解析を行ったが,NMU欠損ラットは野生型ラットと比較して異常値を示さなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はこれまでにひきつづき,我々が独自に作製したNMU欠損ラットの解析を進めることができた。研究結果は,我々の予想と異なるものであったが,当初の研究予定であるNMU欠損による代謝,摂食,肥満への影響の解析を順調に進めた。分子遺伝学的手法,組織学的手法,生化学的手法など多岐にわたる手法の習得が必要だったが,専門家の助言をもとに技術を習得し,解析は精密に行うことができた。NMU欠損の摂食への影響の解析では,摂食量だけを比較するのではなく,明期と暗期にわけて測定することで,摂食の日内リズムの解析も可能となった。これまでの解析では予想とおこなる結果を得ている。当初の予定では,NMU欠損により肥満,代謝異常,摂食過多といった表現型がみられることを期待していたが,いずれの測定項目においてもNMU欠損による影響は得られていない。しかし当初の予定どおり,さらなる細密な解析を行うことで,内因性のNMUの機能を明らかにする予定である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでにラットをもちいてNMU欠損による摂食,代謝,肥満への影響を解析してきたが,測定したいずれの項目においても異常を検出できていない。これはNMUの機能に関するこれまでの報告をもとに予想される表現型とは異なっているため,非常に慎重にさらなる解析を進める必要があると考える。そこで本年度,より負荷をかけた条件で検討する必要があると考え,高脂肪食給餌下での検討を行う。離乳時より長期にわたり高脂肪食を給餌し,体重測定,脂肪重量の測定および組織学的解析,血中循環代謝マーカーの生化学的解析をおこない,肥満,代謝への影響を検討する。また高脂肪食の摂食量も比較解析する。またさらに,代謝への影響としては,体温や活動量の比較も必要になると考えている。 また,遺伝子改変動物を用いた研究ではオフターゲットの効果の可能性を考慮する必要がある。そこで次年度は,CRISPR/Cas9法とrat genome-editing via Oviductal Nucleic Acid Delivery法をもちいて,NMU遺伝子の異なる領域をターゲットに遺伝子改変をおこない,新たなNMU欠損ラットを作成する。新しく作成される系統をもちいて,これまでと同様にNMU欠損による代謝,肥満および摂食量への影響の検討を行う。以上の検討をもって,ラットにおける内因性のNMUの機能が,摂食制御やエネルギー代謝の制御に関与するかどうかを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
新規の遺伝子改変ラットをの追加の系統を作製する予定だが,ファウンダーラットが得られていないため,ラットの飼育維持繁殖の管理費分が次年度使用額として生じた。
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