研究課題/領域番号 |
20K15836
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
澁田 未央 (笠松未央) 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 特任研究員 (30849790)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | シロイヌナズナ / 熱記憶 / エピジェネティック修飾 / イメージング |
研究実績の概要 |
高すぎる外気温は植物の生育に悪影響を与える。植物は、一度高温ストレスを感じるとそれを記憶し、次に同様のストレスを感じた際により効率的に対処することができる、「熱記憶」という仕組みを持つ。「熱記憶」の構築には、DNAの配列変化によらない遺伝子発現制御である、エピジェネティック修飾制御が重要な役割を持つことがわかっている。しかし、その制御過程において、核内で何が起きているか、すなわちエピジェネティック修飾マークの核内分布がどう変化するか、「熱記憶」の構築に関わる遺伝子は核内のどういった位置に配置されるのかといった、核内形態および構造学的な研究は技術的な問題から未だ不十分である。本研究ではモデル植物シロイヌナズナを材料に、蛍光イメージングを主な解析手法とし、エピジェネティック修飾マークのライブイメージングツールやシングルコピー遺伝子の可視化法を取り入れることで、核内転写活性環境フレームワークの構築メカニズムの解明を目指す。 1年目の研究実績として、エピジェネティック修飾マークのライブイメージングツールであるmodification-specific intracellular antibody (mintbody)のシロイヌナズナ植物体への導入に成功し、エピジェネティック修飾レベルの時空間的モニタリングを行い、その成果を学会等で報告した。これによってエピジェネティック修飾マークの核内分布パターンのライブイメージングによる構造学的解析の準備が整った。 現在はChIP-seq解析による高温ストレス前後におけるエピジェネティック修飾レベル変動の一遺伝子レベルでの解析準備を進めており、「熱記憶」の構築に関わる遺伝子の抽出を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の主要な解析手法である蛍光イメージングのうち、エピジェネティック修飾マークのライブイメージングツールであるmintbodyのシロイヌナズナ植物体への導入に成功した。転写の活性化状態を示すエピジェネティック修飾マークであるRNA ポリメラーゼ II のリン酸化修飾を観察できるmintbodyに関しては、その正確性をChIP-seq解析によって遺伝子座レベルで示し、また組織間の修飾レベルの比較および核分裂期における転写ダイナミクスのライブイメージングを可能にし、成果をCommunications Biology誌に投稿した。H3K9ac、H3K4me3を観察できるmintbodyに関しては、ストレス応答や発生・分化プロセスにおけるヒストン修飾ダイナミクスの観察と、図の視認性を改良する画像編集技術とを合わせた形での報告を検討しており、現在論文投稿準備中である。 高温ストレス前後の植物体に対して、免疫染色によってエピジェネティック修飾マークの核内分布パターンを観察した結果、RNA ポリメラーゼ II のリン酸化が特徴的な核内分布パターンを示すことがわかった。この修飾マークは通常状態では核内の核小体以外の領域に一様に分布するが、高温ストレスをうけると核膜近傍における分布密度が低下することが明らかになった。この修飾マークは転写の活性状態を示すものであり、この結果は高温ストレスによって核内に転写活性の高い領域と低い領域が形成されたことを示唆し、「熱記憶」の構築における核内遺伝子配置制御の解析の重要性が示された。
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今後の研究の推進方策 |
一年目に作出したRNA ポリメラーゼ II のリン酸化修飾を観察できるmintbodyを用いて、RNA ポリメラーゼ II のリン酸化修飾が高温ストレスによってどのように核内分布パターンを変えていくかを、タイムラプスイメージングによって明らかにする。またこの観察によって得られた画像をもとに、核内分布パターンを数値化して比較できるような画像解析手法の確立を目指す。 エピジェネティック修飾マークが「熱記憶」の構築に重要な役割を持つと考え、高温ストレス前後における各種修飾レベルの変動をChIP-seq解析によって明らかにする。得られた解析データから高温ストレス下で特徴的な変動パターンを示す遺伝子を抽出し、熱記憶の構築に関わる「高温応答遺伝子」とする。得られた高温応答遺伝子について、変異体や過剰発現体、レポーターラインを用いた解析を行い、高温ストレスへの耐性、応答性から「熱記憶」構築機構における役割を考察する。 また、高温応答遺伝子が「熱記憶」の構築過程で核内配置をダイナミックに変化させると仮定し、高温応答遺伝子の核内ダイナミクスを観察するためのシングルコピー遺伝子の可視技術を導入するための環境整備も順次進める。
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