セイヨウミツバチの社会性行動制御と関連する脳領域として、昆虫脳の高次中枢であるキノコ体に着目した研究が進んでおり、ミツバチのキノコ体は異なる遺伝子が発現する3種類のケニヨン細胞サブタイプから構成されることが分かっている。しかし、各サブタイプの機能は遺伝子発現解析による推察に留まっている。本研究では、ミツバチにおけるノックイン法の開発により、各サブタイプの投射パターン、網羅的遺伝子発現プロファイル、および行動制御における機能の解明を目的とする。 今年度は、引き続きノックイン法の検討を行った。インジェクションしたF0世代では、ノックイン処理した個体でのみ挿入配列のPCR増幅が再現性よく検出された一方、タンパク質レベルでは検出できていなかった。そこでインジェクション個体を女王蜂に分化させてF1世代を産卵させる方法に変更してノックイン手法の確立を進めたが、ノックイン効率が低いこと、十分な数の女王蜂から次世代を得られていないこと、ノックインの標的部位が個体発生に影響を与える可能性があることなどから、次世代におけるノックインは未検出である。各ケニヨン細胞サブタイプの網羅的遺伝子発現プロファイルの同定については、各分業を担う働き蜂(育児蜂、採餌蜂)と女王蜂のキノコ体のシングルセルRNA-seq解析を行い、各サブタイプのマーカー遺伝子の網羅的同定と機能の推定を行った。また各サブタイプをより細かく分画するサブクラスターの存在を示唆した。各サブタイプの投射パターンについては、キノコ体の入力部位(傘部)や出力部位(v-lobe)に神経トレーサーを微量注入することで一部のケニヨン細胞の形態を観察できる手法を確立した。トレーサー注入とサブタイプマーカー遺伝子のFISHとの二重染色により、各サブタイプがどの感覚中枢から入力を受けるかを示唆する結果が得られた。
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