研究課題/領域番号 |
20K15842
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
長谷部 政治 大阪大学, 理学研究科, 助教 (40802822)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 光周性 / 概日時計 / 神経分泌細胞 / 電気生理学 / RNA干渉法 / 免疫組織化学 |
研究実績の概要 |
動物は季節に伴う日長変化やその日数を読み取り、季節に応じて生殖機能を適切に調節している。脳内で約24時間周期のリズムを刻む概日時計細胞の一部が、この日長・日数計測の中枢時計:光周時計を担うと考えられている。しかし、光周時計による日長・日数依存的な生殖制御機構の実体はいまだ不明瞭である。生殖機能に明瞭な光周性を示すホソヘリカメムシを用いて、この制御機構の解析を進めた。 初年度(2020年度)において、まず脳内の複数領域に存在する概日時計細胞のうち、どれが日長変化に応答するのかを、概日時計タンパク質:PERIODに対する抗体を用いた免疫組織化学法によって解析した。その結果、脳内の一部のPERIOD免疫陽性細胞群において、日内で免疫陽性シグナルが明瞭に変動するとともに、日長条件によっても免疫陽性強度が変化することが示唆された。 また、光周時計から日長情報を受け取り生殖制御に関与する細胞群として、脳間部(pars intercerebralis, PI)の大型神経細胞に着目した解析も並行して行った。研究代表者のこれまでの研究から、この大型PI細胞は日長に応じてその神経活動を変化させ、その日長応答にperiod遺伝子が関与していることが示唆されていた。このPI神経活動に卵巣発達が関与しているかを卵巣除去実験により検証したところ、卵巣除去はPI神経活動に顕著な影響を及ぼさないことが分かった。さらに、このPI細胞の生理的な役割をSingle cell PCRとRNA干渉による遺伝子ノックダウンにより検証した。その結果、大型PI細胞はインスリン様ペプチドやDiuretic hormone 44といった産卵促進に寄与する複数の神経ペプチドを発現し、産卵促進に寄与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PERIOD抗体を用いた免疫組織学的解析の結果、脳内の複数領域に局在する概日時計細胞のうち、ホソヘリカメムシにおいては一部のPERIOD免疫陽性細胞群が日長変化に応答することが分かった。この日長に応答するPERIOD細胞群が光周時計を担う概日時計細胞である可能性が考えられ、光周時計の実体を解明する上で大きな進捗であると思われる。 また、光周時計から日長情報を受け取り生殖制御へと反映させる細胞群として脳間部(pars intercerebralis, PI)大型神経分泌細胞の解析も並行して行い、これまでの研究と合わせて大型PI細胞は概日時計遺伝子に基づいて日長に応じて神経活動を変化させ、複数の神経ペプチドを放出して産卵促進に寄与する神経細胞群であることを明らかにした。この大型PI細胞の研究成果について、米国科学アカデミー紀要誌(PNAS)にて論文発表を行った。 これらの研究成果により、日長に応答するPERIOD細胞を中心に日長測定が行われ、その日長情報が大型PI細胞に送られることで、日長依存的な産卵機能の制御が行われているという作業仮説が示唆された。そのため、該当年度の成果は、実体が不明瞭であった光周時計による日長依存的な生殖制御機構の解明につながるものであると考えられ、研究課題の遂行に向けて順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
初年度で日長への応答性が見られたPERIOD免疫陽性細胞群が、生殖機能の日長・日数依存的な制御に重要である可能性が考えられる。そこで、局所神経除去手術により、標的とするPERIOD細胞が局在する脳領域が生殖機能の光周性応答に関与しているかを検証する。 また、産卵促進に重要であることが分かったPI大型神経細胞は、より上流の概日時計細胞から日長情報を受け取り、日長に応じて神経活動を調節して産卵機能の制御に寄与していると考えられる。そこで、概日時計細胞からPI細胞への日長情報の伝達機構を明らかにするために、概日時計細胞から出力される神経伝達物質を、免疫組織化学法やin situ hybridization法を用いて解析を試みていく。また、候補となる神経伝達物質について、薬理的な投与実験によって、PI細胞の神経活動への影響を電気生理学的に解析する。並行してPI細胞においてSingle cell PCRを行い、それらの神経伝達物質の受容体遺伝子が発現しているかについても検証を行う。さらに、RNA干渉法によってそれらの神経伝達物質の伝達シグナルを遺伝子操作した際の、生殖機能やPI細胞の神経活動の日長応答への影響の解析も試みていく。 生殖制御に関わる脳領域としてこれまで注目してきたPIの他に、ホソヘリカメムシにおいて脳側方部(pars lateralis, PL)が報告されている。そこで、このPLの神経分泌細胞群からの神経活動解析も来年度より試みていく。
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