本研究では、生殖に明瞭な光周性が見られるホソヘリカメムシを用いて、概日時計をもとにした日長読み取り時計(光周時計)による生殖制御機構の解析を行った。 昨年度までに、脳の一部の領域で時計タンパク質PERIODの日内発現が日長に応じて変化することを明らかにした。また、グルタミン酸の脳内レベルがperiod依存的に日長に応じて変化し、このグルタミン酸が産卵促進に寄与する脳間部(PI)細胞の活動制御を介して、産卵の光周性制御を行っていることも明らかにした。 最終年度において、先述のグルタミン酸に注目した研究成果をまとめ、PLOS Biology誌に原著論文が掲載された。続いて、昨年度までに時計タンパク質発現に日長変化が見られたため、mRNAレベルでの日長応答についても定量的PCR法により解析した。その結果、概日時計のコアループを形成する時計遺伝子の一部において、全脳mRNAレベルが日長に応じて変化することが分かった。また、他種で時計タンパク質制御への関与が示唆されていたリン酸化タンパク質群のmRNA発現にも、日長変化が見られた。そこで、RNA干渉法による遺伝子ノックダウン解析を実施したところ、一部のリン酸化タンパク質でノックダウンにより生殖腺発達の日長応答が減衰し、光周性への関与が示唆された。 また、日長情報を受け取る生殖制御細胞に関して、先に解析したPI細胞に続いて生殖休眠の誘導に関与する脳側方部(PL)細胞に注目し、その遺伝子プロファイルをSingle cell-PCR法により解析した。その結果、背側PL細胞ではsNPFやコラゾニンといった複数の神経ペプチドの発現が見られた。一方で、複数ある時計遺伝子を一通り発現する背側PL細胞は見られず、背側PL細胞は時計細胞ではないことが示唆された。また、遺伝子解析と並行して、背側PL細胞から安定して神経活動記録ができる実験系の確立にも成功した。
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