哺乳類を除く脊椎動物の松果体は光感受性であり、網膜と同様に光情報を脳へ伝えることが示唆されていた。申請者は、2020年度にゼブラフィッシュ松果体に発現する光感受性分子、オプシンの1つ(UV感受性PP1)に注目し、その特異な性質を利用した光刺激により、ゼブラフィッシュにおいて松果体オプシンの1つが出力する光情報が伝えられる脳領域(中脳)をカルシウムイメージングにより同定した。また、その脳領域において、網膜の光情報との統合が認められ、複数の光“感覚”受容器からの情報統合という現象を明らかにした。2021年度では、松果体の光受容細胞に存在する複数のオプシンの出力を、光受容細胞、松果体神経節細胞レベルで明らかにするため、PP1発現光受容細胞に加えて、松果体光受容細胞(Exorhodopsin発現光受容細胞、LWS-opsin発現光受容細胞)にカルシウムプローブであるGCaMP6sを発現する遺伝子導入ゼブラフィッシュを作製し、カルシウムイメージングを実施した。その結果、大きく分けて3種類存在する松果体光受容細胞は、UVや可視光を織り交ぜた一定の光刺激プロトコルにより、それぞれが大きく異なるカルシウム変化を示すことが明らかとなった。さらに松果体神経節細胞のカルシウムイメージングでは、3種類の光受容細胞の応答と強く関連すると考えられる3種類のカルシウム変化プロファイルを記録した。さらに、その3種類のカルシウム変化は前述の中脳においても記録された。すなわち、松果体が得た光情報を処理する中枢が中脳に存在することが示唆された。
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