本研究では、匂い刺激と温度刺激を同時に感知した線虫がどのような行動を選択するかを遺伝学的・分子生物学的に解析し、脳内における感覚情報の統合メカニズムを明らかにすることを目指して実験を行った。その結果、以下の成果を得た。 - 行動実験:線虫が好む匂いや温度刺激の条件検討を行い、線虫が刺激依存的に行動を変化させる条件を確立した。さらに、EMSにおけるスクリーニングや、神経伝達物質の変異体を中心にしたCandidateスクリーニングから、温度と匂い刺激の統合に異常を示す変異体を複数同定した。また、刺激下の線虫の行動を記録し、個々の個体の動きの詳細を解析するプログラムを完成させた。 - 神経活動の解析:行動や行動を制御する神経細胞は、外部刺激が影響を受けやすい。そのため、自由に動く線虫において非侵襲で神経活動(GCaMPの蛍光強度変化)を記録する顕微鏡装置を導入した。顕微鏡設備のカスタマイズや匂い・温度刺激を与える方法の検討、取得した動画の解析方法の確立を行い、自動で線虫を追跡して単一神経細胞の神経活動を十分な時間記録できる設備を完成させた。匂いや温度情報はそれぞれ異なる神経回路により情報が伝達されることが知られている。匂いや温度の情報が統合される神経細胞を同定するため、これらの感知伝達に関与していることが報告されている各感覚神経や各介在神経においてGCaMPを発現する線虫系統を作製した。 上記の成果により、感覚情報の統合に関与していることが強く示唆される遺伝子の候補を複数得て、また行動中の各神経細胞の活動を調べることができた。今後は得られた候補遺伝子やその変異体における遺伝学的解析やイメージング解析を行って、匂いと温度情報を統合する分子と神経回路の同定を行う。さらに、異なる情報を伝達する神経回路がどのように相互作用を行うのかをモデリングする目的で、各神経細胞の活動を数理学に解析する。
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