研究課題/領域番号 |
20K15846
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研究機関 | 国立研究開発法人情報通信研究機構 |
研究代表者 |
原 佑介 国立研究開発法人情報通信研究機構, 未来ICT研究所フロンティア創造総合研究室, 研究員 (20749064)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 脂肪酸 / 休眠 / インスリン / Patch-seq |
研究実績の概要 |
低温・短日・飢餓のストレス条件で飼育されたショウジョウバエの成虫雌は、卵巣の発育を停止して生殖休眠する。他方、低温飼育されたショウジョウバエの成虫雌は、不飽和脂肪酸を多く含む餌を好むようになることが知られている。低温という一つの環境因子が生殖休眠と脂質嗜好性の変化という二つの生理的現象に関与するという事実から、摂取する脂肪酸の違いが生殖休眠に何らかの作用をもたらす可能性が考えられる。一般に、不飽和脂肪酸の摂取は膜リン脂質の脂肪酸の組成を変化させ、膜の流動性を増加させることで個体に低温耐性を賦与することが知られている。この機構は恒流動性適応と呼ばれ、環境の温度変化に対する細胞機能の維持や調節に重要な役割を果たすと考えられている。ショウジョウバエにおいて見られる温度依存的な脂質嗜好性の変化も、温度変化に対する細胞機能の適応的調節にはたらくものと考えられ、特に休眠制御を担う細胞の機能調節において重要な役割を持つものと推察される。そこで、本研究では脂質嗜好性の変化が本種の生殖休眠に及ぼす影響を調べるため、異なる脂肪酸組成を持つ餌を摂取した成虫雌において、以下の実験を実施した。 1. 卵巣発育状態の評価 2. 休眠制御中枢であるインスリン産生細胞(IPC)の電気的性質の解析 3. Patch-seqによるIPCの遺伝子発現プロファイルの解析 実験の結果、不飽和脂肪酸の摂取が卵巣発育に対し抑制的に作用することを明らかにした。また、不飽和脂肪酸の摂取は、IPCの膜特性と遺伝子発現にも大きな変化をもたらすことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究実績の概要欄に記載の1と2の実験は当初の計画通りに実施し、卵巣発育とIPCの電気的性質において摂取する脂肪酸の違いの効果を明らかにすることができた。一方、3のPatch-seqは当初計画には含まれない新たな実験であった。本実験により、餌に含まれる脂肪酸組成の違いによってIPC内で大きな発現変化を示す遺伝子を多数同定することに成功した。以上の通り、当初計画されていた実験に加え、計画されていなかった新たな実験も実施することができ、個体・細胞・分子の各階層において研究成果を得ることができたため、当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
餌に含まれる脂肪酸の組成の違いによってIPCの膜特性と遺伝子発現プロファイル、及び卵巣の発育状態は大きく変化することが明らかとなった。しかし、現時点ではどの脂肪酸がそれら変化の要因となっているのかは不明である。そこで、今後は合成培地を使った実験により、餌の成分をより正確にコントロールし、特定の脂肪酸がIPCの機能と卵巣発育に与える影響を詳細に検討する。また、Patch-seq解析により発現変化が認められた遺伝子のうち、特に顕著な変化を示した特定の遺伝子について、IPCにおける生理的機能の解明を図り、さらに生殖休眠制御における役割を探る。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の残額では希望する試薬を購入できなかったため、次年度に繰り越して購入する事とした。
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