キイロショウジョウバエの雌が示す温度依存的な脂質選好性の変化が生殖休眠に対してどのような役割を持つのかを解明することを目的とし、R4年度は以下二つのサブテーマについて解析を進めた。 1. IPCの温度応答機構の解析:過去に行った研究から、IPCは温度応答能を持ち、その応答は飼育栄養条件により大きく変化することが明らかとなっている(未発表)。このIPCの温度応答は環境変動に適応した生殖機能の制御に重要な意味を持つと考えられるが、その分子機構については部分的にのみ解析が行われた状態で、不明な点が多く残されていた。そこで、IPCの温度応答の機序について電気生理学的解析を行ったところ、Cl-チャネルのゲーティング変化がその応答に関与する可能性が示唆された。この知見を元に、過去に行ったPatch-seqのデータからその担体となるチャネル遺伝子を探索し、候補遺伝子について薬理学的手法と遺伝学的手法を用いた機能阻害実験を行った結果、温度応答に関与すると考えられるCl-チャネルを特定することに成功した。 2. IPCの膜特性と脂肪酸との関係:R3年度までに未解析であった脂肪酸のIPCの膜特性に対する作用について解析を進めた。また、IPC特異的な不飽和化酵素の強制発現がIPCの膜特性に与える効果についても解析を行った。これらの実験から、IPCにおける特定の膜脂質の組成変化が温度応答を含むその電気的挙動に大きな変化をもたらすことが明らかとなった。 これまでの結果をまとめると、餌から得られる脂肪酸は種類ごとにIPCの膜特性と遺伝子発現に異なる作用をもたらし、この違いが環境適応的な卵巣発育の制御に重要な役割を果たすものと推察される。今回同定したCl-チャネルは各種脂肪酸とIPCの機能との関係を今後紐解いていく上で重要な鍵となる。
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