研究課題/領域番号 |
20K15851
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研究機関 | 総合研究大学院大学 |
研究代表者 |
荒川 那海 総合研究大学院大学, 統合進化科学研究センター, 特別研究員 (90844754)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ヒト特異的皮膚形質 / 遺伝子発現量 / プロモーターアッセイ |
研究実績の概要 |
ヒトの皮膚は他の霊長類に比べ多くの形態的・生理学的特徴があるが、それらがどのように進化してきたのか、その遺伝的基盤はあまり明らかになっていない。これまでの研究で私は、発現量解析によりヒト特異的皮膚形質に繋がる可能性のある4遺伝子の発現量増加をヒトの皮膚で検出した。さらにこれらのヒト特異的遺伝子発現を生み出すヒト系統での塩基置換を推定した。本研究課題では、それらの置換が実際にヒト特異的遺伝子発現を生み出しているのかを、ヒト皮膚培養細胞を用いたプロモーターアッセイとゲノム編集により解明することを目的としている。 ルシフェラーゼによる化学発光を測定するプロモーターアッセイでは、安定した測定結果を得ることのできる実験系の構築が重要である。そこで今年度はまず、信頼性のある測定値を得るためにアッセイ系の改良を行った。これにより、より安定性のある測定を行えるようになった。 また、昨年度までに作成したプロモーターアッセイ用のベクターをCOS-7細胞に導入し、改良したアッセイ系によりルシフェラーゼ遺伝子の発現量の比較を行った。最初に、ルシフェラーゼ遺伝子上流にヒト特異的発現を示した各遺伝子のプロモーター領域を挿入したベクターを用いてアッセイを行った。これらのベクターは、プロモーター領域を挿入していないベクターと比較してルシフェラーゼ遺伝子の発現量が増加していた。そこで次に、推定した塩基置換サイトを含むヒトゲノム領域の配列をベクター上のプロモーター領域上流に挿入した。これらのベクターは、プロモーター領域のみが挿入されたベクターと比較してルシフェラーゼ遺伝子の発現量が有意に増加していた。このことから、挿入したヒトゲノム領域の配列には転写活性が伴っていると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度はプロモーターアッセイにおいて信頼性のある測定値を得るためにアッセイ系の改良を行った。ルシフェラーゼによる化学発光を測定するプロモーターアッセイでは、安定した測定結果を得ることのできる実験系の構築が重要である。手法の改良を行ったことにより、今後のアッセイで信頼性のある測定結果を得ていくことができると考えている。 また、改良したアッセイ系を用いて、昨年度までに作成したプロモーターアッセイ用ベクターのルシフェラーゼ遺伝子の発現量の比較を行った。実際の細胞内での発現調節機能に近づけるために、ルシフェラーゼ遺伝子上流にはヒト特異的発現を示した各遺伝子のプロモーター領域を挿入し、さらにその上流に転写活性を調べたいヒトゲノム領域の配列を挿入した。これらのベクターを用いて測定を行った結果、挿入したヒトゲノム領域の配列には転写活性が確認された。今後、Mutagenesisによりヒトゲノム領域中の候補塩基置換サイトのみをヒト型から類人猿型の塩基に置換したベクターを作成し、この塩基の違いがルシフェラーゼ遺伝子の発現量に影響するのかを明らかにしていく。 また、予備実験としてゲノム編集を行った細胞株を作成中であり、プロモーターアッセイで絞り込んだ候補置換について培養細胞での発現比較を行う準備を進めた。これにより、プロモーターアッセイで特定した塩基置換が、ゲノム中の他の遺伝子ではなくヒト特異的発現を示した遺伝子の発現を変化させるものであるかを検証することができる。 上記のように、皮膚でのヒト特異的遺伝子発現を生み出す塩基置換の特定に向けて実験を進めている。このことから、おおむね順調に研究課題が進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度のプロモーターアッセイの結果により、推定した塩基置換サイトを含むヒトゲノム領域の配列に転写活性が確認された。そこで来年度はまず、Mutagenesisにより領域中の候補塩基置換サイトのみをヒト型から類人猿型の塩基に置換したベクターを作成する。これらのベクターをCOS-7細胞に導入し、ヒト型と類人猿型の塩基を持つベクター間のルシフェラーゼ遺伝子の発現量を比較していく。 プロモーターアッセイではアフリカミドリザルの腎臓由来であるCOS-7細胞にベクターを導入してアッセイを行っている。ヒト皮膚培養細胞に比べ、COS-7細胞は細胞外から導入されたルシフェラーゼ遺伝子が効率よく発現し、プロモーターアッセイにおいて安定した測定結果を得ることができる。そこで、まずCOS-7細胞を用いたプロモーターアッセイを行うことにより複数ある候補塩基置換からルシフェラーゼ遺伝子の発現に影響する置換を選び出し、それらの置換についてヒト皮膚培養細胞を用いたプロモーターアッセイを行う計画である。 また、ゲノム編集の実験系の構築後、ヒト皮膚培養細胞を用いたプロモーターアッセイにおいて発現量差を示した候補置換サイトを、ヒト型から類人猿型に書き換えた細胞株を作成する。ヒト型と類人猿型の塩基を持つ細胞間で、ヒト特異的発現を示した遺伝子の発現を定量PCRによって比較する。これにより、プロモーターアッセイで特定した塩基置換が、ゲノム中の他の遺伝子ではなくヒト特異的発現を示した遺伝子の発現を変化させるものであるかを検証することができる。 プロモーターアッセイとゲノム編集での発現比較を行うことで、着目する遺伝子のヒト特異的発現を生み出す塩基置換を特定していく。これにより、ヒト特異的皮膚形質が進化の過程でどのような遺伝的基盤によって獲得されてきたのかを明らかにできると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は新型コロナ感染症拡大防止のために国際学会などに参加ができず、旅費・参加費などの支払いがなく、次年度への繰越し金が多くなった。次年度はプロモーターアッセイ、ゲノム編集をたくさん行うため、繰越し金も含めて予算を多く支出する計画である。
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