研究課題/領域番号 |
20K15852
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
今田 弓女 愛媛大学, 理工学研究科(理学系), 助教 (80818948)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 生物間相互作用 / 擬態 / コケ / 双翅目 / 捕食 / 進化生態学 / 生態形態学 / 昆虫生態学 |
研究実績の概要 |
擬態はさまざまな生物に広くみられる適応進化の例である。擬態がどのような生態学的背景のもとで進化するかについての研究はきわめて少ない。そこで本研究では、シリブトガガンボ類(ハエ目シリブトガガンボ科の昆虫)を擬態の進化生態学的研究の新しいモデルとして、「コケに隠蔽的な擬態がいかに進化したのか」という問いに生態学、進化学、生理学といった観点から切り込んだ。 まず、コケに隠蔽擬態するシリブトガガンボ亜科について、種ごとに幼虫の生態・形態を解明した。とりわけ本群の擬態を構成する形態がどんな機能をもつかという生態形態学的な切り口から、本群の擬態の進化に迫った。ユニークな発見のひとつとして、擬態を構成する柔らかいツノのような構造物が、運動や生理において果たす機能について新たな示唆を得たことがあげられる。これらの知見は先行研究とともに総括した上で、本科において食草や天敵が果たした役割について論じ、原著論文にまとめた。 次に、シリブトガガンボ亜科の種ごとに幼虫形態が食草利用といかに関連しているかを野外調査と飼育実験によって精査した。本群のなかにはジェネラリスト傾向のある種とスペシャリスト傾向のある種がおり、それらの食草範囲は食草の構造やパッチ特性などと関連することが示唆された。 さらに、巧妙なコケ擬態の進化における自然選択について究明すべく、コケを舞台として視覚的に狩りをする捕食者を探索してきた。年間を通じた野外での調査から、林床のコケ類パッチ上で活発に採食する鳥類の存在と、それが昆虫に対して及ぼすさまざまな影響を解き明かしつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
コロナ禍で当初予定していた海外での生態調査・採集が叶わず、本来予定していた亜科間での擬態の転換にかかわる仮説の検証ができなかった。その代わりに、国内で実施できる内容、とくに形態・組織学的実験、室内飼育と解析に集中できた。総合的に、当初の計画よりも幅広い視点から研究を発展させることができ、多方面において収穫をえたと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
巧妙なコケ擬態の進化において、食草および天敵との関係がいかなる役割を果たしたかについて、研究を推進する。擬態する昆虫の生態・形態・行動についてさらに知見を集積しつつ、色・模様・形態の定量解析および系統学的解析に取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究内容の変更にともなって、海外渡航にかかる旅費が発生しなくなったため、その分を使い切らずに少額ながら次年度の消耗品などの用途に分配することとした。
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