多くの生物は、色や形によって周囲の環境に溶け込むような姿形をもつ「隠蔽擬態」によって、視覚的に狩りをする捕食者の目を逃れている。生物の擬態は適応進化の題材としてこれまで進化生物学において盛んに研究されてきた。そのほとんどは、体色や模様に注目しているが、一方、擬態には物理的な構造物(突起など)も関わっている。本研究は、そうした構造物の役割に焦点を当ててきた。 シリブトガガンボ科の幼虫は、他のガガンボ類と大いに異なる特異な生態・形態的特徴をもつ。とくにシリブトガガンボ亜科の多くの種の幼虫は植物(コケ類など)に擬態しており、それには体色、模様(クチクラに沈着した色素斑)、肉質突起という3つの形態的特徴が関わっている。本研究は、(1)各種の生活史(食草範囲)および形態の解明、(2)体色と模様の定量的解析、(3)肉質突起の機能の解明、(4)幼虫の擬態に関連する形質の系統進化パターンの解明の4つを実施することで、シリブトガガンボ類を擬態進化の新しいモデルとした研究を展開した。 研究実施期間においては、(1)から(4)のいずれについても多くの成果が得られ、(1)と(3)の成果の大部分は出版済みである(Imada 2021)。終了時点では、(3)と(4)の成果について解析および論文執筆を進めている。なお、当初計画していたオセアニアでの調査はコロナ禍のため実現できず、国内で実施できる内容への大幅な方針の転換を余儀なくされた。それに伴って、国内での模索的な調査・研究を開始し、並行して進めていくなかで、さらに包括的かつ波及効果の大きい課題を着想し、その課題が2022年度に基盤研究Bに採択されたため、本課題は2年目で廃止した。
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