研究課題/領域番号 |
20K15854
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
八木 創太 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 基礎科学特別研究員 (10779820)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | RNAポリメラーゼ / タンパク質進化 / 生命の起源 |
研究実績の概要 |
本研究では、「転写」を司るRNAポリメラーゼの起源となったと考えられている小型ベータバレル構造Double-Psi Beta Barrel(以下DPBB)がどのように誕生したかを解明する事を目的としている。約80残基からなるDPBBは、約40残基の配列が2回繰り返したような構造を持つことから、40残基ほどの短いペプチドの遺伝子重複と融合により誕生したと考えられてきた。本研究では、この進化仮説に則り、DPBBの進化を実験的に再現した。はじめに、理論的設計法及び計算科学的手法により完全に同じ配列が二回繰り返した完全対称型DPBBを構築した。さらに、完全対称型DPBBを半分とした約40残基のペプチドが二本会合したホモダイマーの構築にも成功した。この結果は、これまでのDPBBの進化仮説を支持する。 また、DPBB配列に含まれるアミノ酸種を限定することで、何種類のアミノ酸でDPBBを構築できるかを検証した。13種のアミノ酸からなるDPBB変異体を出発材料として段階的にアミノ酸種を減らしたところ、7種類のアミノ酸(Ala, Val, Gly, Asp, Glu, Lys, Arg)だけでDPBB構造を作れることが分かった。また、Gluについては、7アミノ酸種からなるDPBBより削除した場合は構造形成はみられないが、13アミノ酸種からなるDPBBより削除した場合はDPBB構造を維持できることが分かった。つまり、Gluは必ずしもDPBB形成において必須ではないと言える。 古代DPBBの持つ機能についても検証したところ、二本鎖DNAに特異的に相互作用することが分かった。そのため、古代DPBBは転写因子やヒストンタンパク質のような役割を果たしていた可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、RNAポリメラーゼなど生物には欠かせない重要酵素に含まれる汎用的なDPBBフォールドがどのようにして誕生したかを実験的に解明することを目的とした。 当初予定していた計画の半分にあたる2つの小課題「内部に完全な二回対称性を持つDPBBの構築」、「約40残基のペプチドホモダイマーによるDPBBの構築」は完了し、DPBBが50残基にも満たない短いペプチドのホモダイマーを起源として遺伝子重複と融合を経て誕生したとする仮説を実証できた。 また、3つめの小課題「より少ないアミノ酸種でのDPBBの構築」に取り組んだところ、7種のアミノ酸(Ala, Val, Gly, Asp, Glu, Lys, Arg)のみでDPBBを作れることも見出した。2021年度は、これらの結果をまとめ、学術雑誌及び複数の学会で研究発表を行った。また、Gluは必ずしもDPBB形成には必要ないということが分かったことから、7よりも少ないアミノ酸種によるDPBBの構築に向けての手がかりを得ている状況にある。また、残す小課題となる「古代DPBBの機能探索」について、DNAと相互作用を生じることが判明したことからも当初の計画は順調に進んでいると言える。 さらに、これら研究過程で、DPBBの持つ優れたFolding特性、40残基よりも短いペプチド断片によるDPBB構造の形成、他のタンパク質ファミリーとの進化的関係性を示唆する証拠など、非常に興味深い結果も得られている。これらの結果は新たな研究分野開拓のための基礎情報を与えると期待している。 以上の理由から、当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、7種類のアミノ酸からなる43残基のペプチドがホモダイマーを形成しDPBB構造を作れることが分かってきた。この7種のアミノ酸から、さらにアミノ酸の種類を減らし、最低何種類のアミノ酸があれば古代タンパク質は誕生しうるか?を明らかにする予定である。現段階では、7アミノ酸種からなるDPBBのGluを全て同じ負電荷アミノ酸であるAspへと置換、といった単純な設計方策では上手くDPBB構造作らせることができない事が分かってきた。しかし、13種類アミノ酸種からなるDPBBからはGluを欠失できたことから、DPBBの構造形成においてGluは必須ではないという知見を得ている。そこで、Gluを除く6種以下のアミノ酸セットを基に、計算科学的手法でDPBB配列を最適化する予定である。 また、DPBB形成に必要な7アミノ酸種にはLysやArgなどの正電荷アミノ酸が含まれている。一般的に、これら正電荷アミノ酸は原始地球には存在しなかったと言われている。そこで、LysやArgを除き、原始地球にも存在したと言われる正電荷アミノ酸であるオルニチンを含むアミノ酸セットでもDPBB配列を最適化する予定である。以上の実験を、通して、より単純なアミノ酸組成でDPBB構築を行う予定である。 これまで、DPBBが二本鎖DNAと結合することから、古代DPBBタンパク質もDNAと相互作用して機能していた、という仮設が建てられた。しかし、ゲルシフトアッセイで検出されたDPBB-DNA間の親和性は高くなく、構造解析するには難しい状況にある。そこで、DPBBのホモログタンパク質であり、核酸結合能を有するRIFTファミリーのタンパク質と比較し、核酸結合に関わるアミノ酸をDPBBへと移植する予定である。これにより、核酸と強く結合するDPBBを構築し、その複合体の構造解析および機能について明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では、単純なアミノ酸組成でDPBB構造を作ることを目指しており、現在までに7種類のアミノ酸でDPBBが構築できることが分かってきた。さらにアミノ酸種を減らしたDPBB変異体を設計しその特性を実験的に検証するが、この実験は各変異体の人工遺伝子合成・化学ペプチド合成に依存している。これらを購入するにあたり次年度予算の必要性が生じた。
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