研究課題/領域番号 |
20K15858
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
東山 大毅 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 特任研究員 (40816625)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 形態 / 解剖 / 進化 / 頭部 / 顔面 / 神経堤細胞 / 哺乳類 / 発生 |
研究実績の概要 |
脊椎動物の頭部は複数の顔面突起から構成されており、その相対的な位置関係によって骨格や神経など、多くの解剖学的構造の位置関係が決定づけられる―これは教科書的に広く知られる知識ではあるものの、実証として示された例や、どの構造がどのくらい対応するのか、あるいはどのような条件で破綻するのかといった検証はほとんど為されてこなかった。この現象を知ることは、発生学上どのように決定づけられ、進化し、また先天性疾患の際にどう変化するかなど、複雑な解剖学的構造を伴う我々の形態に対して法則的に理解する上での必須な知見となるだろう。 当該年度は、遺伝子改変マウス(Dlx1-CreERT2マウス)を主に用いた顔面原基の系譜追跡実験を含めた論文発表をおこなった。これは、脊椎動物を通じて保存的であるとされてきた上あごの顔面原基の組み方が哺乳類の進化過程で大きくズレたことを示したものである。その結果、哺乳類は口先から形態的・機能的に独立した「鼻」を獲得し、なおかつ新規な口先の構造をも獲得したのである。この論文では、顔面に分布する三叉神経の末梢などが現象として顔面原基の発生系譜に固く対応することも示している。だからこそ、上あごの三叉神経の分布は哺乳類とそれ以外の動物とでは不可避的に異なるのである。ただし、顔面原基と末梢神経との対応については例外も見つかっており、この件についても現在論文としてまとめ、投稿中である。 また、哺乳類における独特な顔面の形成過程に関連して、成体において哺乳類様の末梢神経の分布を示すワニ類の胚についても胚の三次元構築などをおこない、形態学的な検証を行った。さらにはマウス胚頭部を用い、空間トランスクリプトームによる網羅的な発現遺伝子の探索も進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度から引き続き、新型コロナウィルスの影響によるマウスの掛け合わせを含む実験の一時停止などがたびたび生じ、また当初計画していた共同研究も長距離移動の自粛から決して順調には進まなかった。ただ、一時的に実験をやめ、計画を俯瞰してみることで当初の研究計画にはなかった関連テーマの着想にも繋がり、新たな共同研究にもつながったほか、軟骨魚類のサンプルなどの得難い試料も集まってきた。当初の研究計画を基準にすればたしかに遅れてはいるものの、全体としては順調に進んでいるともいえる状況である。
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今後の研究の推進方策 |
マウスやニワトリを用いた顔面原基と解剖学的構造との対応関係は概ね現象論として確立されつつある。しかし、前年度にも言及したように、これらの関係が破綻しているようにも見えるのがワニ類の頭部である。これまででワニ胚の初期咽頭胚期の三次元構築を行ってきたが、後期胚は極めて大きく、三次元構築をおこなうほどの精度で連続組織切片を作るのが極めて困難であることが予想される。そこで、次年度は加速器を用いた非破壊的なCT撮影をおこない、ワニ後期胚や様々な非モデル動物胚の三次元構築を進める。 さらに、現象としての顔面突起の伸び方の差、あるいは末梢神経のような解剖学的構造が顔面原基同士の境界を超えない理由を知るために、マウス胚を用いた空間トランスクリプトームを計画している。胚頭部を用いた類似の実験はいまだ存在せず、本研究の成果が顔面突起間の分子的な差異を詳らかにし、顔の進化や口唇口蓋裂などの先天性疾患の解明などにも波及することが期待できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は新型コロナウィルスによる影響がなお大きく、当初計画していたマウスの実験や出張の予定を取り消し、再度計画をよく練りなおした。その結果、最初の計画には無かった空間トランスクリプトームや、非モデル動物のワニ胚等を用いた実験を今後行うことになった。また当該年度はこれまでの実験を論文としてまとめることにも費やした。 次年度以降は空間トランスクリプトームをはじめ、それに伴う解析に共同研究で取り組むことから、高額な費用が必要となることが予想される。このため、当該年度の研究費を翌年度以降に繰越し、大規模な実験に備えることとする。
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備考 |
以上はいずれも研究成果のプレスリリースである。
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