研究課題/領域番号 |
20K15860
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
後藤 龍太郎 京都大学, フィールド科学教育研究センター, 助教 (50725265)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 性的二形 / 矮雄 / 進化 / 繁殖集団サイズ / 軟体動物門 |
研究実績の概要 |
異性(同種の雌や雌雄同体)とともに暮らす極めて小さな雄(矮雄)は、節足動物、軟体動物、環形動物、魚類など様々な分類群で繰り返し進化しており、体サイズにおける性的二型の顕著な例としてよく知られている。その一方、その起源や進化条件の理解は依然として遅れている。本研究では、浅海で多様化を遂げた二枚貝類の一群ウロコガイ科を主な対象として、矮雄の進化条件を繁殖集団サイズとの関連から解明することを目的としている。本年度は、和歌山県紀伊半島および鹿児島県奄美大島の潮間帯において、ウロコガイ類の採集を行うとともに、各種の生態について野外調査を行った。調査を通して矮雄がこれまで報告されていなかった種からも大型個体に付着して暮らす矮雄様の微小個体を確認した。またさらに共同研究者の協力により、琉球列島や瀬戸内海のウロコガイ類の標本も新たに入手することができた。本年度得られたサンプルには、未記載種やこれまで生態不明だった種が多数含まれている。そのうちボネリムシに共生する種については日本ベントス学会で口頭発表を行った。また、本年度得たサンプルからDNA抽出を行い、PCRやシーケンス解析を行った。得られたDNA情報に基づき、現在分子系統解析を進めている。また、クビキレガイ上科の貝類では、カズウズマキが巣穴共生生態及び雌雄のサイズ二型を示すことを報告するとともに、分子系統解析によってイシカワシタダミの寄生性の起源の解明を行った。イシカワシタダミは、大型の雌とそれに随伴する小型の雄が一対一のペアを作り、ウロコガイ科の矮雄と比較的よく似た繁殖様式を示す。分子系統解析の結果、本系の矮雄進化も繁殖集団サイズの縮小と関連している可能性が高いことが明らかになった。矮雄が独立に進化したウロコガイ科とクビキレガイ上科の系統間比較によって軟体動物における矮雄の進化条件についてのより詳しい検証が可能になると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度多様なウロコガイ科二枚貝類を新たに収集することができた。例えば、シャコ巣穴に共生するヨーヨーシジミ属や甲殻類の巣穴に共生するマメアゲマキ属の未記載種などである。これらのサンプルを分子系統解析に加えることで、これまでより解像度の高い系統樹が得られた。また、野外調査において、これまで矮雄が確認できていなかった種においても、矮雄様の微小個体の付着を観察できた。さらに、クビキレガイ上科のイシカワシタダミ類の系統がウロコガイ科二枚貝類とよく似た生息場所転換と矮雄進化のパターンを示すことを明らかにできた。独立に矮雄を進化させた系統間の詳しい比較を通して、軟体動物における矮雄の進化条件についてより一般性の高い結論が導くことができると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は一定の成果が得られたものの、新型コロナウイルスの影響により、遠方や海外での調査を見送った。2021年度も引き続き、海外での調査や研究の実施は困難な状況が続くと予想される。そこで所属研究機関から比較的アクセスの良い紀伊半島沿岸などの国内の調査地での採集や野外調査を拡充することでサンプルや生態データの収集に努める。また、分子実験や分子系統解析を重点的に進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスによる影響で、海外調査などの遠征を見送った。また、国際学会のための渡航も取りやめとなった。そのため、当初予定していたより使用額が少なく繰越しするに至った。2021年度も引き続き海外渡航を伴う研究活動は困難な可能性が高いため、所属機関近辺を中心とする国内での野外調査やサンプリングを行うとともに、分子実験や分子系統解析を重点的に実施する予定である。そのため、国内旅費や、分子実験関連の試薬類や系統解析用パソコンの購入費用、シーケンス解析費用としての使用を主として計画している。
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