最終年度である本年度は、追加の遺伝子発現解析や大陸種を含めた系統解析を行うとともに、新たな試みとして各地域集団のデモグラフィー解析を行った。 1)冬毛から夏毛への換毛期における遺伝子発現パターンを調べるため、動物園飼育のヘテロ個体2個体について4-5月の換毛期と6月の換毛完了後にサンプルを収集し、RNA-seqおよび責任遺伝子座のアンプリコンseqを実施した。その結果、ヘテロの個体では責任遺伝子のアレル間で発現量に有意な差は見られなかった。これは夏毛から冬毛への換毛時の遺伝子発現パターンと異なることから、責任遺伝子のアレルの発現パターンが時期特異的にコントロールされており、季節性の毛色変化の発現に寄与していると推測された。しかし、更なるサンプル数の充実によって検証を進める必要がある。 2)ニホンノウサギと同じ責任遺伝子が毛色多型に寄与していることが新たに報告された北米のオジロジャックウサギの全ゲノム配列をデータベースより取得し、ノウサギ属における系統解析を行った。その結果、責任遺伝子領域ではニホンノウサギの多型のアリルと、オジロジャックウサギの多型のアリルは系統的に離れており、それぞれの毛色多型は同一の遺伝子に制御されているにも関わらず、系統的な起源は異なることが示唆された。今後、遺伝子領域内の変異の比較や、それぞれの種での多型の獲得起源など、詳細な進化史について全ゲノムデータを増やして解析を進める必要がある。 3)ニホンノウサギが分布する東北から九州までの13地域の代表各1個体について、全ゲノムシーケンスを行い、PSMC法によるデモグラフィー推定を行った。その結果、どの地域集団も同様に最終氷期前後での有効集団サイズの増加と減少を示した。一方でその増減は日本海側地域の集団でより顕著であるようだった。地域による第四紀の気候変動の影響の違いが、集団サイズの増減に現れていると推察された。
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