本研究の目的は、アスナロ属のアスナロとその変種であるヒノキアスナロの2変種間の天然林分布の相違および、2変種に観察される特徴的な繁殖様式であるクローナル繁殖に着目し、2変種間の局所適応における遺伝的要因を明らかにすることである。クローナル繁殖は、実生更新が望めない厳しい寒冷な環境下で個体群を維持するための重要な繁殖様式である。アスナロとヒノキアスナロは、天然林分布が日本海側と太平洋側に明確に分かれており、ヒバは日本海側の寒冷な環境に局所適応していると考えられる。ヒバでは局所適応を通じて、繁殖様式を伏状更新によるクローナル繁殖を主とした方法に変化することで、アスナロと生態的に種分化している可能性がある。集団間のクローナル繁殖の頻度の違いは、集団間の遺伝的構造の違いとして反映されていると考えられるが、繁殖様式の変化における遺伝要因の影響は不明確である。本研究では、アスナロ属2変種の繁殖様式の比較、および2変種間の遺伝的変異を解析することで、2変種間の繁殖様式における遺伝要因の影響を明らかにする。 これまで2変種の遺伝解析をおこない、変種間の遺伝的差異を明らかにした。令和5年度は、取得した遺伝子変異の解析を実施し、それらの変異についての解析を行った。解析の結果、繁殖様式の変化と遺伝的な差異との間に何らかの関係性があることが示唆された。今後は、これらのより詳細な解析を進め、繁殖様式における遺伝的な差異について明らかにしていく。
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