研究課題/領域番号 |
20K15872
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
平野 尚浩 東北大学, 東北アジア研究センター, 助教 (20808654)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 進化 / 種分化 / 島嶼生物学 |
研究実績の概要 |
コロナの影響のため、十分なフィールド調査はできなかったものの、一部地域の調査は実施できた。調査はこれまで陸産貝類相が把握されていなかった無人島を中心に行われ、その結果複数種で分布域が更新された。また、調査で得られたサンプルに加えて、昨年度に収集したサンプルを用いて、解析を進めることができた。特に、ヤマタニシ属においては南西諸島で著しい種多様性が確認され、大陸島における種分化のプロセスの一旦を解明した。分子系統解析や形態解析の結果から、本属は多数の隠蔽種を含んでおり、進化生態学的な知見のみならず、保全生物学上も重要な情報を得ることができた。分岐年代推定の結果から、本属は島嶼成立以前に種分化を開始した可能性があり、これまで大陸島の種分化で重要とされてきた分断以外のプロセスが島嶼生物の種多様化に寄与した可能性がある。アシヒダナメクジ科では南西諸島の種群の系統的位置と移入の起源が推定され、これまで知られていなかった種が確認された。南西諸島の生物多様性に移入の影響を示すものであり、新たな外来生物の侵入・防除の上でも重要な知見となる。以上の研究はそれぞれ査読付き国際学術雑誌に公表された。また、野外調査では陸産貝類の化石サンプルを追加で得ることができた。既知の化石産出地域はほぼ全て網羅できた他、新規で得られた地域やこれまで知られていなかった種が発見され、過去の分布域や棲息環境の推定を行うことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
限定的な野外調査とサンプリングとなったものの、研究を遂行する上で重要な地域で実施できた。南西諸島の無人島での調査はこれまで知られていなかった地域で陸産貝類相を把握でき、特にオナジマイマイ属では海岸型が分布していた。オナジマイマイ属では海流分散が分布域を形成する上で重要な役割を果たしていることがわかり、改めてタクソンサイクルが島嶼の生物多様性に寄与している可能性が示された。さらに、ヤマタニシ属では大陸島の種多様化プロセスにおいて重要とされる分断ではない要因が寄与していると考えられた。これはオナジマイマイ属でも類似したパターンとなっており、予想外の結果とも言える。さらに、今回の調査では陸産貝類各グループの化石が多くの地域から得られており、これらのサンプルは形態進化の解明に今後寄与するだろう。以上のように、本研究は予想外の結果が得られた部分があるものの、おおむね順調に進展していると結論できる。
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今後の研究の推進方策 |
一部地域で野外調査が完了したとは言え、コロナ禍の影響で未調査の地域が多く存在することから、来年度に野外調査を実施する予定である。それにより、概ね調査を予定している南西諸島の全域を網羅でき、各地の陸産貝類相を包括的に把握すると共に、全てのサンプルを使用して遺伝解析を行う予定である。遺伝解析は次世代シーケンサーを用いたMIG-seq法やddRAD-seq法を使用し、系統的位置や分岐年代の推定、集団動態の推定を行う予定である。さらに、化石サンプルと現生集団のサンプルを比較し形態を定量化することで、時間経過ごとの形態の変化を詳細に把握することができる。来年度はこれらの個々の解析を行い、それらの結果を組み合わせることで、包括的に南西諸島の陸産貝類の種多様化プロセスの解明を目指し、タクソンサイクルの役割についてさらに知見を深めることを目指す。
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