植物が近傍の他個体との血縁関係を認識し、それにより成長に対する資源分配を調整する、血縁認識の進化理論を構築するために、空間明示的個体ベースモデルを構築した。既存理論では、2個体の相互作用のみを考え、血縁の認識を行うことを仮定していなかったが、これを血縁認識および、空間楮を考慮した個体群へと拡張を行った。血縁認識の分子的、生理的メカニズムは未だ不明であるため、古典遺伝学で用いられてきた、近交係数がお互いに認識可能であると仮定することにより、個体間の近交度に基づいて2つの戦術から一つを選択する混合戦略モデルとすることによりこれを実現した。また、個体ベースモデルを構築することにより、空間概念を取り入れ、散布距離に応じて、個体群内における個体群の血縁構造を表現することができた。これにより、植物が持つ生態的特性である、種子散布様式に応じて、血縁協力行動の進化について議論することが可能となった。 これまでは、植物が土壌資源競争時に過剰に根への資源分配を行う共有地の悲劇問題について、出生時に競争応答として、根への資源配分が確定する静的なゲーム理論による解析しか行われて来なかった。しかし、本研究期間全体を通して、植物の成長プロセスを考慮した数理モデルを構築することにより、動的な理論を達成し、これについては、論文出版を行った。また、血縁認識を取り入れた協調的ふるまいの進化理論については論文投稿準備にまで到達した。今後さらなる発展を望む重要な基盤づくりに成功したと評価できる。
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