研究課題/領域番号 |
20K15877
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
丸尾 文乃 中央大学, 理工学部, 共同研究員 (70807297)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 植物繁殖生態 / 蘚苔類 / 極限環境 / 南極 / 有性生殖 |
研究実績の概要 |
生物の繁殖機構は生育環境によって変化するのか、という問いを解明するために、地球上で最も低温かつ短い生育可能期間の生育環境である南極に生育する蘚類の繁殖状況を形態学、遺伝子工学、生理生態学、過去の標本との比較から明らかにすることにより、繁殖生態学の古くからの学術的疑問「生育に適さない環境では有性生殖の割合が減少する」を明らかにする。また気候変動の影響が現れやすい南極の蘚類の繁殖状況から「気候変動は生物の繁殖機構にどのような影響を及ぼすのか」という問いに答えるのが、本研究である。 ●令和2年度は、南極産サンプルとの比較のために、日本高山帯における蘚類の有性生殖状況の調査及び整理を行った。特に富士山において、標高変化による有性生殖の制限状況について調べ、「Restriction of sexual reproduction in the moss Racomitrium lanuginosum along an elevational gradient」として「Ecology and Evolution」に論文を掲載した。高標高になるほど、蘚類の有性生殖は制限されており、南極においても有性生殖が制限されている可能性が示唆された。 ●南極産サンプルの外部形態の観察による繁殖状況の確認を行った。南極産サンプルの植物体を顕微鏡下で解剖・観察し、繁殖器官である胞子体・配偶子嚢の形成数とサイズを測定し、南極における有性生殖状況の把握に努めている。 ●南極産サンプルの胞子発芽条件の検証を行った。胞子発芽実験の予備実験として、発芽に適した培地と温度条件を検証した。 ●南極産サンプルの光合成活性の温度・光強度依存性の検証を行った。PAMを用いて、温度・光強度を変更しながら、南極産サンプルの光合成活性の変化を調べ、光合成活性能力の温度・光強度依存性についての解明に着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
生物の繁殖機構は生育環境によって変化するのかを明らかにするために、本研究では、「生育に適さない環境では有性生殖が減少する」と「気候変動が蘚類の繁殖機構にどのような影響をもたらすか」という2つの問いの解明に取り組んでいる。 「生育に適さない環境では有性生殖が減少する」を明らかにするために、生育に適さない環境として、低温・短い生育可能期間・乾燥が顕著な環境である南極に現在、生育する蘚類の繁殖状況から有性生殖とオスの減少を確認すること目的とし、植物体の外部形態から繁殖状況を把握すること、繁殖エネルギー獲得能力の雌雄差を明らかにすること、有性生殖が実質的に成功しているかを胞子の発芽能力と群落内の遺伝子の多様度から評価すること、フェノロジーの把握という研究計画を策定している。 もう一方の問いである、「気候変動が蘚類の繁殖機構にどのような影響をもたらすか」を明らかにするために、標本庫の標本と現在のサンプルの繁殖状況及び過去と現在の気象情報を比較し気候変動に伴う繁殖機構の変化を捉える予定である。 現在までに、最初の問いである「生育に適さない環境では有性生殖が減少する」の解明に特に取り組んできた。具体的には南極に生育する蘚類の有性生殖の状況の解明に着手し、現地で採集したサンプルを解剖・観察し、繁殖器官である胞子体、配偶子嚢の形成数、サイズを測定した。 また、有性生殖が実質的に成功しているかを評価するために、胞子の発芽能力と群落内の遺伝子の多様度を測定する予定であるが、その準備として、胞子発芽の培地の条件と発芽環境(温度等)の検証及び遺伝子実験の設備の拡充を行った。また、オス、メスの生理生態の違いを明らかにするために、光合成活性に関する温度・光強度依存性についても測定に着手した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は引き続き、南極産サンプルから現在の南極の蘚類の繁殖状況から有性生殖・オスの減少を確認するために、南極産サンプルの外部形態の観察による繁殖状況の確認、オス・メスの生理生態の違いを光合成活性能力の差から把握することを進めていくとともに、研究をより進める段階として、有性生殖が実質的に成功しているかを●胞子発芽実験、●群落内の遺伝子の多様度の測定から明らかにすることに重点的に取り組んでいく。 ●胞子発芽実験 南極ではPottia heimiiという種において胞子体形成が確認されており、胞子体のサンプルが完了している。これまでに検証済みの胞子発芽に適した条件の培地・温度条件において、南極産サンプルの胞子が発芽するのかを確認する。また、現地の温度条件においても胞子が発芽するのかを確認し、胞子の発芽能力と野外環境における胞子が機能している可能性を明らかにし、南極で有性生殖が実質的に成功しているのかを検証する。 ●群落内の遺伝子の多様度の測定 有性生殖が機能していれば、群落内の遺伝子の多様度は高く、生育環境の変化に対して脆弱である可能性は低くなると考えられる。本研究では、MIG-seq法を用いて、群落内の遺伝子の多様度を測定する予定である。また、各個体が互いにどの程度近縁かを計算し、南極でサンプリングを行った複数地域間で遺伝子の交流がどの程度あるのかを明らかにすることに取り組んでいく。すでに遺伝子実験の環境の整備は完了しており、すぐにDNA抽出実験に着手し、研究を進めていく予定である。
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