研究課題/領域番号 |
20K15878
|
研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
上村 卓矢 埼玉大学, 理工学研究科, その他 (80847179)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 共生菌 / ハスモンヨトウ / シロイヌナズナ / 植物ホルモン |
研究実績の概要 |
植食性害虫は、寄主植物が誘導する抵抗性反応を制御することで、食害効率を向上させることができる。近年、害虫唾液内に生息する共生微生物が寄主植物内シグナル伝達経路に作用する可能性が示唆されてきたものの、唾液内共生菌によるエフェクター作用の分子メカニズムは十分に理解されていない。そこで本研究では、広食性農業害虫であるハスモンヨトウ幼虫を用いて、植物の抗虫防衛機構の制御に関わる唾液内共生菌の単離を行い、その作用機序解明を目指した。昨年度はハスモンヨトウ幼虫から採取した唾液を寒天培地上に塗布し、好気性条件、嫌気性条件下など様々な条件で培養を行い、共生細菌の単離を目指した。その結果、複数種の唾液内共生細菌の単離に成功した。その中の一種の共生菌をハスモンヨトウ幼虫無菌化唾液に懸濁し、モデル植物であるシロイヌナズナに処理したところ、抗虫性防御ホルモンであるジャスモン酸応答性遺伝子の発現量が低下していた。その一方で、病害ホルモンであるサリチル酸および環境ホルモンであるアブシジン酸応答遺伝子の発現量は上昇していた。これらの結果から、シロイヌナズナ防御応答を制御するハスモンヨトウ唾液内共生菌の単離に成功し、共生菌は寄主植物内の複数の防御ホルモン経路に作用することで、植物の抵抗性反応を制御している可能性が示された。ここまでの研究成果を論文にまとめ、報告した(Yamasaki et al., (2021))。植物-植食者-共生微生物の三者間の相互作用機序を分子レベルで紐解こうとする本研究は、生態系システムの新たな相互作用モデルの提案につながる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ハスモンヨトウ幼虫唾液内から、多様な共生微生物を単離した。またシロイヌナズナのシグナル伝達経路に作用する共生微生物の単離に成功し、シロイヌナズナのシグナル伝達経路への作用機序の解明も行った。ここまでの成果を論文としてまとめた(Yamasaki et al., (2021))。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度は、共生細菌によるシロイヌナズナ内シグナル伝達経路への作用機序をより詳細に解明することを目指す。先行研究においてシロイヌナズナHAK1およびPBL27がハスモンヨトウ幼虫唾液内エリシターへの応答に重要な役割を果たすことが示されている。そこで共生微生物が当該分子システムに作用する可能性を検証していく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの蔓延により、当初予定していた研究成果発表に係る旅費の使用を見送った。また緊急事態宣言の発令による実験計画の変更から、物品費や運搬費の使用頻度が減少したため、次年度使用額の計上に至った。当初の実験計画よりも順調に研究は進展していることから、本課題をより発展的な研究へと推し進めるために、助成金を使用していく。
|